81 〈腐灰水源〉の探索を始めた

 ログインっと。他でもエピッククエスト発生してる見たいだけど、こっちはエルナ達しか対処できないんで頑張りますか!


「お帰りなのじゃ!」


「きゅっ!」

「きゅきゅうっ!」

「きゅ~!」


 朝日が射し込む部屋で、チナとウサギ達がお出迎えしてくれた。

 ん? よく見るとチナの髪形が変わっていた。長い髪を後ろで大きな三つ編みにした、一部2次元美少女キャラがたまにしている、デッカイエビの天ぷらを思わせるあの髪型だ。エルナがログアウトしている間に、エルナが助けたクードさんの奥さん、アキナさんがこの髪型にしてくれたらしい。

 戦闘の邪魔にならない様に、纏めてくれたらしく、三つ編みおさげを結んでいる、水色のリボンもチナにくれた見たいだ。


「チナ、その髪型似合ってるよ~♪」


「みゅ、わちもしょう思うのじゃ♪」


 イメチェンして、可愛さUPしたチナと一緒に、ウサギ達とちょっと戯れた後、時間を確認する。ふむ、惑星エルアクシアの時間で、1月30日午前8時半か。

 アキナさんに、チナの髪の事でお礼を言い、クードさん家族と一緒に、遅めの朝食を頂いた。

 ちなみに、クードさん達家族は、加護持ちの異世界転移現象を、ちゃんと把握している様で、別に驚く事も無かった。朝食中クードさんの息子のクルス君が、設定上エルナが行っていた異世界に、めっちゃ興味がある見たいだったので、適当に現実世界の科学の話をしたりした。


 今日は、例の修行僧が湧き出させたと云う、腐る湧き水を如何にかしようと思う。

 この湧き水を飲んだ人は、異変が起こって直ぐに、元々飲み水に使っていた村の南にある湧泉に、水を汲みに行く様にしたので、大きな問題には為らなかったらしい。

 この腐る湧き水は、例の修行僧が村全体に行き渡る様、エーランブラム山のある村の北側に湧出させ、山の傾斜を利用して村に水を引き込む予定だったらしい。

 何で予定だったのかと言うと。水を村に引き込むのを、村人達が例の修行僧にコレ位は自分達でやると言って、地道に作業していた為である。

 ちなみに、農耕用の水は、農耕地区の北東を流れる川から、引いて来て利用している。飲み水として利用しないのかと言うと、村からの距離,衛生面に必要な工事の資金を考えた結果、飲み水として利用はしていない。かと言って、南の湧泉から水道を引くのにも、かなりの資金が必要である為、結局水道を引いていないのだそう。

 だから、そこを付け込まれたのだけどね。


 しかし、この話だけ聞くと。思考力を奪われているのに、よく冒険者ギルドに依頼を出したと思うよ。幾ら天然飲み水が採って来れると言ったって、ライフラインである飲み水の設備費用ケチってる訳だしねぇ。


『依頼料については、今回の件は国から補助金が出ても可笑しくない案件です。生命の危機を感じて生存本能が、一時的にあの霧の力を抑えたのでしょう。それに、霧の侵入を、あの消えそうだった村の結界が、ある程度は防いで居たのでしょうしね』


 なるほど。あの消えそうだった村の結界と生存本能の力で、冒険者ギルドに依頼を出せたって訳か、有り得なくはない話かな。

 それにしても、この世界の国家もこう云う時は補助金が出るんだなぁ。

 ソフィーちゃん曰く、侵略者関連や大規模な被害が出る様な、自然災害の除去やエネミーの討伐は、大抵国から補助金が出るのだそう。

 まあ、確かに規模が大きいと一地方自治体の資金力じゃ、高位ランクの冒険者を雇ったりするのは厳しいもんな。と言っても、エルナは上位ランクで、高位ランクの冒険者じゃないけどな!

 あ、それと念のため。探索に行く前に、村にウサギを6羽ほど置いて往く事にした。ウサギで1パーティー分って感じだな。


 村の北側の結界の境まで来ると。今までもそうだった様に、村の結界の外は白い霧に包まれており、先は全く見通せない。

 このクエストでは、お馴染みに為りつつある『星浄星域結界』を展開し、自分ととチナに『炎浄煌気』を掛け、村に掛けた結界の外に、バリバリィッ!! 霧を消し去りながら足を踏み出した。


¶迷宮化領域〈腐灰水源〉に侵入しました。


 迷宮化領域に侵入して、直ぐに感じたのは、腐敗臭と水が流れる音だ。幸い、足元がいきなり水に浸かっている、と云う事は無かった様だ。

 それにしても水源ねぇ、例の修行僧が出現させた腐る湧き水、かなりの湧出量が有る見たいだなぁ。だってこの水音、その湧水の水が、此処まで流れて来てるって事だろ?


 星覚を始め、察知系スキルを総動員して、周囲の状況を調べる。

 周囲は木々に囲まれた森になっており、エーランブラム山へ続く道が有る様だ。

 そして、やはり村の近くまで水が迫っている様で、スキルで感じただけでも、森の大半の木々は、何かに汚染された水に、浸かっていると云うのを感じた。

 多分、灰だと思うけどな。何せ、この迷宮化領域の名前もそうだし、このクエストの引き金になった修行僧は、灰呪教とか言うのに属している訳だしな。


「ふみゅ、これはわちの得意なフィールドなのじゃ! エルナ、ここの探索はわちに任しぇると良いのじゃ!」


 チナが元気よくエルナに提案する。確かに、こんなに水だらけのフィールド、水竜神の分霊であるチナにとっては、たとえ汚染されていたとしても、自分の庭見たいに活動できそうだ。


「それじゃ、チナにお願いしようかな」


「うみゅ、存分にわちに任しぇると良いのじゃ!」


 チナが腰に手を当て、えっへんとポーズを取っているのが、とても可愛らしく和む。


 さて、探索を開始する訳だが、そもそも修行僧が湧き出させた湧水は、村の周りに有るどの水源よりも近い筈だ。

 だが、エルナのスキルでは、分からない位に水源は遠いと感じる。

 迷宮化の所為で水源まで距離が遠くなってるのか?

 本来なら例の修行僧の思惑通り、村に水が通った後水に異変が起こっても、水源が遠く原因が直ぐに調べられないとか、そうなる予定だったのだろうか?


 チナには、水源が何処に有るか分かるらしく、エルナを先導して先を行く。

 チナのフリフリ動く尻尾を見ながら、〈腐灰水源〉を進んで行くと。チナが、直径60cm以上は有る、苔で出来た玉の様な物の前で止まる。


「お宝なのじゃ!」


 そう言って、苔の玉をチナが指差す。

 ん? これがお宝?


「この苔の玉見たいなのがお宝なの?」


「うみゅ、この苔玉は宝箱見たいな物なのじゃ!」


 この苔玉が宝箱ねぇ。迷宮化してるとは言え、例の修行僧が宝箱何て設置するかね?


『シズル様。チナ様は、宝物化したアイテムを見つけたと言う事でしょう』


「宝物化?」


「にゅ? ソフィーちゃんとやらが教えてくれたのかのう?」


 口に出てらしい。チナに「そうだよ」と答えると、「物知りなのじゃ」とチナは目を細めて言う。


 で、ソフィーちゃんの説明を聞くと。

 宝物化とは、迷宮化が起こる前から、その場所にあったアイテムや何かしらの力が、迷宮化による異界化現象により変質し、ダンジョンの宝箱と同じ様な物になる現象の事らしい。

 ちょっと前に、ソフィーちゃんから聞いた魔物が変質して、ドロップを落とす様に成るヤツのアイテム版だ。つまり、敵が設置した物では無いという事らしい。


 苔玉を収納するのはアレなので、この場で開ける事にする。

 で、この苔玉、如何やって開けるのだろうか?


「チナ、これ宝箱見たいな物だって言うけど。如何やって開けるのかな?」


「にゅ、簡単なのじゃ!」


 そう言うとチナは苔玉を軽く蹴る。

 蹴られた苔玉は真ん中に亀裂が入り、亀裂から光が漏れてぱっくりと割れた。

 雑っ! 如何やら宝箱と認識した状態で、軽く衝撃を与えると宝箱が開く様に、割れると云う事らしい。これは、この苔玉だけに限らず、宝物化したオブジェクト全般に言える事の様だ。

 ちなみに、宝箱と認識していないと、只のオブジェクト扱いで、お宝GETとは行かないらしい。ついでに言うと、発見系のスキルを進化させていかないと、見つけられる様にならないとの事。


 で、肝心のお宝は……。

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