心象シナスタジア

かみじょー

「」

 青い空に白い雲。

 時計の針がてっぺんを指そうとする頃。

 日野ひの栞菜かんなは、窓側の1番後ろの席で、頬杖をつきながらただボーっと外を眺めていた。

 終業式を終え、私達学生は夏休みに入ったはずだった。

 どういう訳か、夏季補講という名の登校が続き、楽しみにしていた夏休みも残すところ2週間あまりだ。

 夏季補講なんて便宜上だけで、実際には50分授業がみっちり午後まで。通常授業と何ら変わらない生活を送っていた。

 いつの日だったか、学年主任が意気込んで「夏休みが大切です」なんて語っていたことがあったっけ。

 これだから自称進学校は嫌なんだ。


 そんな補講も今日で終わり。

 ようやく明日から、夏休みらしい夏休みが始まる。

 課題は沢山出ているし、予定もないし、正直楽しみかと問われれば微妙なライン。

 それでも、眠い目を擦りながら授業を受ける必要がないと考えるだけで、幾分かマシな気がする。

 黒板の前で担任が一所懸命に何かを話しているのを横目に、教室の窓側、1番後ろの席で頬杖をついて、外を眺める。

 マンガやアニメでは、無気力系の主人公が好んで座る場所だが、現実はそういいものではない。と思う。

 プリントやノートを集めるために頻繁に席を立たないといけない。

 夏は陽射しが暑くて、冬は隙間風や換気のためにひたすら寒い。

 それに、何かと目につくのだ。この場所は。

「聞いてるか、日野。」

「……すみません。」

 後ろだからと油断していれば、すぐやられる。

 私の周りをアメフト部か柔道部が囲んでくれれば、暑苦しいだろうけど、物理的に隠れることは出来ると思う。

 ……暑苦しいだろうけど。

 早く終わらないだろうかと欠伸を噛み砕きながら、私は大人しく視線を前へ向けた。

 教卓の前の席には、熱心にメモを取りながら話を聞くクラスメイトがいた。

 そんなに重要な話なのだろうか。

 初めの方は一切聞いていなかったために、全く流れが掴めない。

 チャイムがなるまであと5分。

 私は担任の後ろの黒板をボーッと見つめる。

 窓の外では、カラスが1匹鳴いていた。




【心象】とは……

 感覚が心の中に再生したもの





 あの夏、私達はたしかに生きていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心象シナスタジア かみじょー @mashingan_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る