第36話「呀王と貪る者」
第三十六話「呀王と貪る者」
【超伝導ロボ・コンウォーリアー
【超伝導マシーン・ボルテッカ
ボルテッカ
どちらも呀王や貪る者の全高より、倍以上の大きさを誇る巨大さだ。
「原子力、バァァナァァァ」
コンウォーリアー
「グランデファイヤー」
ボルテッカVのベルトのバックルが『ガシャン!』と開き、『V』の字型の炎が一瞬発現する。その後でバックルの穴から超高熱の火炎が噴射される。
東から来たコンウォーリアーVと南から来たボルテッカVは、申し合わせた様に火炎攻撃を始めた。
負傷している貪る者を守りつつ、足元で不規則に暴れ飛んでくる喧嘩ゴマを打ち払っている呀王には、自慢の毛皮がちりぢりに焼かれ、スキルも使い切ってしまっていて、スキルのクールダウンが終わるまでしばらくは使えない。
このままでは座して死を待つばかりである。
本来なら撤退するべき局面だが、負傷している友を見捨てて一人逃げ帰るのは武人としての誇りが許さない。
既に満身創痍となっている魔獣軍団長【ウガルルム種 呀王】は最後の選択を採った。
「(おい、オレを食え。オレはここまでだ。お前は生き延びろ)」
獅子の魔物はそう言って、食べにくそうな『黄金の爪』を装着している左手首を、右手の『黄金の爪』で切り落とし、真っ赤な血の滝を地上に流している左手首を、弱って動けなくなっている貪る者の口に突っ込んだ。
半分意識が飛んでいた【貪る者】は、口に突っ込まれた呀王の左手首を条件反射でハムハムと食らいついた。
次の瞬間、無意識の貪る者の口は顎と言わず、首の後ろにまでガバッと大きく大きく開いて、呀王の左肩までを一気に噛み切った。次に頭から上半身を丸被りしてムシャムシャと獅子の魔物を食い進んでゆく。
【貪る者】の名の通り彼は、面倒見が良いアニキ肌で気の良い友人でもある【呀王】を、一気に貪り食い尽くしてしまった。
グエエエエエエップッッッ。
亜人軍団長は満腹まで食べるといつも豪快なゲップをする。
千切れていた手足が復活し、魔獣軍団長を任されるほどに魔力の強い呀王という魔獣を食った所為で、体力は全快を通り越して吸収されたために、貪る者の躰は一回りも二回りも大きくなり、その全高は30メートル超す体躯と成った。
着ていたフルプレートアーマーは身体の急激な成長に合わず、胸・腹・首・腕・腰・太腿など、片っ端から引きちぎって捨てた。
投げ捨てられたフルプレートアーマーのパーツは、周辺の建物も含めて街灯・自販機・信号機・自動車などをぺしゃんこにしていく。
成長が終わり、しばらくぼうっと立っていた貪る者だが、やがて正気が戻り、『また仲間を食ってしまった』ことを悟った。
そして『また一人生き残ってしまった』事実に、自分に対して怒りと後悔が湧き上がった。
自然と溢れてくる涙で顔面はくちゃくちゃになるが、ここは戦場。
友の死を悲しんでいる時間は無い。
貪る者はその場で四股を踏み、両手は腹の横に持っていき、『力溜め』のポーズを取る。
「熱血バーニング! 身体能力超アップx5倍!」
呀王のスキルをも貪り食った彼は、友が得意だったスキルを発動させた。
貪る者と呀王は一つになったのだ。
貪る者の身体全身が炎に包まれ、その肉体を構成する筋肉がボコボコッとパンプアップし、更に一回り大きくなった様に見える。
貪る者の太腿に力が漲り、筋肉がギュッと締まり、踏み締めているアスファルトがメコッと凹む。
次の瞬間、『土煙り』と『触れる物全てを焼く魔法の炎』を残して、貪る者が消えた。
彼は一瞬で数十メートル上空に浮かんでいるボルテッカVの真下に来た。貪る者が元々持っているスキル『縮地』だ。
そこからジャンプして、左手でボルテッカの右腕を掴み、右手で
数十メートル上空とは言え、亜人軍団長も今や30メートルを超す大怪獣だ。普通にジャンプすれば届く。
ものすごいパワーでアッパーカットが決まり、ボルテッカVの身体が大きく『くの字』に曲がる。
ボルテッカVは右腕を掴まれているので、作用反作用の力が発揮されず、吹き飛ぶ事は許されない。
ウガルルムの王のアッパーカットはその威力をほとんどロス無く、全てボディーに注ぎこまれたのだ。
埋め込まれた右手から『熱血バーニング』で纏っている魔法の炎が、ボルテッカの腹に燃え移る。
オルグ・ハイに掴まれたままの超伝導マシーンは、その重さを支え切れず、地上に下降を始める。
「五連ミサァァイルッッ」
掴まれている右腕も発火しているので、腕に内蔵されている小型ミサイルが暴発する前に撃ち尽くす!
右手首がガチャンと倒れ、内蔵されている五連の小型ミサイルが一斉に発射される。
DoDoDoDoDoDoDoDoDoDoDooooM。
さながらチェーンデスマッチの様に身体が固定されているので、当然、全弾命中だ。
戦闘経験値の高いボルテッカチームの攻撃は未だ終わらない。
「ボォルテッカッ、ビィィィム」
胸に付いている特徴的なV字装甲板の上に装備されている、同じレンズ状砲口から4種類のビームを撃てるお得なビーム砲から、今回はボルテッカビームだ。
照射されたビームがオルグ・ハイの上半身を焼くが、彼は一向に気にしない。
そのまま落下しつつ、地上すれすれの所でボルテッカVを
『
そしてその横の水陸両用バスの発着場も含めて、投げ飛ばされたボルテッカVが背中でプチプチッと潰してしまった。
「ビッグバラァァストォ」
東京ソラツリーの東側から来ていたコンウォーリアー
BOMB!!
命中・爆発した。
ミサイルの爆発で身体は吹き飛ばされたが、『熱血バーニング』で纏っている魔法の炎がショックを吸収してくれて、たいしたダメージは受けていない。同時に魔法の炎は時間切れで消えていった。
まもなく『身体能力超アップ』の効果も切れるだろう。
「
コンウォーリアーVの額に取り付けてある「V」のエンブレムから、『Vの字』に成ったレーザー光線が発射され、軌道上にあるビル群を『Vの字』に貫通しながら亜人軍団長の左肩も『Vの字』に貫通した!
きっと額のマークが『肉』だったら、『肉』の文字が焼き抜かれていただろう。
「倒せ! ジャーントロボッッッッ」
「ヴァ!」
ソラツリーから脱出したロボが、ロケット噴射で一直線に貪る者へ飛んでゆき、突き出した右手を身体ごとぶち当てる、豪快な体当たりが決まった。
ロボの勢いは止まらず、ロケットの噴射量を更に上げる。ロボは貪る者を拳で突き刺したまま、8つのビルを貫通・破壊し、本所税務署のビルにめり込ませてやっと止まった。
グハッッ!!!
貪る者が、口から緑色の血を大量に吐いた。
バケツをひっくり返した様なまとまった緑色の液体が、彼の足元にあった数台の車にバシャバシャと降り注いだ。
ジャーントロボはゆっくりと立ち上がり、貪る者の腹から突き刺さった右腕を引き抜く。
「殴れ、ロボ!」少年隊員は容赦が無い。
「ヴァァ」
青い巨人・ジャーントロボが特徴的なぶっとい右腕を大きく振り被り、長大な弧を描いてブウウウウウンとフックパンチを放つ。
ガキン!!
片手・両手持ち兼用の剣『バスタードソード』を両手持ちにして、全力で剣の腹でパンチを受けた貪る者は、108万馬力のパンチの威力で吹き飛んだが、同時に本所税務署のビルを押し潰してこの状況から脱出した。
貪る者は腹と口から血を流しながら、剣を杖にしてヨロヨロと立ち上がった。満身創痍だ。
それでも『掛かってこい』とばかりに、両手持ちのバスタードを下段に構える。
「超伝導たぁつぅまぁきぃぃぃぃ」
追い付いてきた超伝導ロボ・コンウォーリアーVの頭部から渦を巻く超伝導体が発生し、その渦をコンウォーリアーVの両腕に移し、投げ付ける。
『超伝導タツマキ』は弱った敵を強力な電磁場で固定して動けなくし、次の必殺技を100%叩き込む為の極悪なチート技だ!
超伝導体の渦は貪る者に巻き付き、彼の体内の電気抵抗を0に書き換え、巻き付いた超伝導体によって新たに強力な電磁場を形成する。
その為に彼は、強力な電磁場に捕らわれる形となり、その場で磔の状態となって身動きを封じられるのだ。
発生した磁界の中心で両手両足を大の字に広げて、為す術なく磔状態にされている貪る者。
「天空ぅぅぅ海剣っ」
コンウォーリアーVと同じく追い付いてきた、ちょっと腹が焼け焦げている超伝導マシーン・ボルテッカVは、超伝導タツマキによって空中に固定されている貪る者を見て、胸部にV字型の装甲板として格納されている大剣の柄を取り外す。
『Vの字装甲板』は4つの光線が放てる超精密機械なはずなのに、剣の
ボルテッカVが胸の装甲板を取り外すと、下部より柄が、上部からは両刃の剣先が『ジャキンッ』と伸びる。
幅広い両刃の刀身は超伝導で電気抵抗0になっているので、刀身に強力な電磁フィールドを形成することによって、対象の分子結合を破壊しながら斬り裂く無敵の剣となる。
「天空ぅぅ海剣・Vの字斬りぃぃぃぃぃ!」
ボルテッカVの必殺剣技,『Vの字斬り』だ。
飛んで来た空中から、落下速度・600トンの自重・電磁ブレードの斬れ味が合わさって、貪る者の右肩から腹までを袈裟がけに斬り、その後両刃を活かして角度を変え、剣を引き抜きつつ、腹から左肩に斬り裂く。
その際、電磁ブレードのエネルギーが残留し、切断面がVの字に輝く。
「グッギャカァァ」
ZUddddddOOOOOOOM!!!
貪る者は生物なのに、何故か大爆発を起こして爆散した。
東京ソラツリーの局面は地球防衛軍の勝利で終わった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
大量ゾンビと5メートルの空飛ぶ巨大コスプレ幼女の相手を、東方無敗とその弟子に任せてその場を脱出した地球防衛軍隊員A子・B子・ミヤノ・カメラマンの4人は、ぎゅうぎゅうに詰まった放送機材などで本来3人乗りの流星号に無理クリ乗り込んで、一路『百動物戦隊、ギャオレンジャー』が闘っている『言問橋』周辺に飛んできていた。
「2・1・はい、3速! ミヤノさん、遅い!」
「お、おう、すまん」
流星号の後部座席は機材がパンパンに詰まっていてカメラマン一人しか乗れないので、運転席側に3人乗っているため、シフトレバーをまたいで乗っているミヤノが、B子の号令に合わせてシフトをチェンジしている。
パンパンなコックピットの中で、B子のクラッチに合わせてシフトを切り替えるのはなかなか難しい。シフトチェンジの度、飛んでいる機体が安定せずにガクッと揺れる。
「4速いくよ。2・1・はい、4速! 今度は良い調子よ」
「見えたよ。グチャグチャじゃん」
現場は大小様々なモンスターで埋め尽くされており、至る所から火災が発生していて、ケムリの柱がモクモクと立ち上がっている。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
地球防衛軍の隊員たちが脱出した後、東方無敗とその弟子は、たった二人でゾンビ軍団と亜人軍団を撃滅せしめたのだった。
残るは死霊軍団長【始祖ヴァンパイア リリーラ】ただ一人。
それなのに、その屍の山を背に、東方無敗の弟子は血まみれで倒れていた。
彼を血まみれにしたのは、彼の師匠・東方無敗だ。
「何故だ、何故なんだ、師匠っ!」
「まだ解らんか? だからお前はアホなのだっっ。この大地を、海を、空を、地球を護るためには、人間は排除されねばならんのだ!」
東方無敗は既に血だらけの弟子に向かって、更に顔を踏みつける。
「わしはこやつと共に魔王軍に行く。お前はいつまでも無様に地を這いずり回っているが良いわ!」
チャイナ服を着た老人は捨て台詞を吐いて、魔王軍の生き残りであるリリーラの下へ向かった。
「やっとアタシのイビルアイが効いたのね? 所詮シュショックーね。チョロいわ。アハハハハハ」
身長5メートルのツインテール幼女は勝ち誇ったように笑った。
「貴様のチンケな妖術なぞに、このわしが屈するとでも思うたか? 否、全てわし自身の意思で動いておるわ!」
「ウソ! アタシのイビルアイがチンケ・・・って、魔界30000年の秘術よ? ・・・マジ?」
リリーラは精神に100ダメージを受けた。
「その証拠に、そこでくたばっておるバカ弟子にも効いておらぬであろう?」
「た、確かに・・・。お前たちには効かなかった」
そこまで喋ってリリーラは『はた』と気付いた。
「言われて見れば、アタシこの戦争が始まってからほとんど活躍して無いわ」
彼女は飛んでいる空中からじじいの所まで降りてきた。
「ねぇ? アタシってそんなにダメ?」
東方無敗は腕組みをしながら大きくうなづいた。
「察するに貴様は、魔物軍の隊長であろう? 上に立つ者がそんな弱気でどうする? わしがその腐った性根を叩き直してくれるわ! わしを連れて飛べ! 修行じゃっっっ!」
リリーラは稲妻に打たれたが如きの感銘を受けた!
始祖ヴァンパイアで、魔界でも屈指の強さを持ち、30000年以上の悠久の時を過ごして来た中で、リリーラに対して目の前に居るじじいの様な、不遜な態度の者は居なかった。
「はい、師匠!」
ロリババアの周囲に無数のコウモリが集まってきた。リリーラの分身体だ。
全高5メートルの幼女は、大事そうに師匠を抱き抱え、太平洋に向かって遥か南に飛び去って行った。
「し、師匠・・・。」
破壊され尽くした道路に倒れたまま、師匠が飛び去る南に向かって手を伸ばした弟子は、薄れ行く意識の中で師と仰いでいた東方無敗を呼び、気絶した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
やっと魔王軍幹部を2人倒せました。
その内1人はオウンゴールと言うw
トロールの王と言う立場の【貪る者】は、『食って回復する』と言う部分を強調したかったので、傷付く度に亜人軍団の軍団員を食い散らかして復帰する、執拗い演出を考えていましたが、執拗いのでやめましたw
東方無敗が敵に寝返るつもりは無かったのですが、やっぱりこの人は原作通り敵にならないと面白くないなと思い直し、こんな結果になりました。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
宜しければ、♡で応援。
★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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