第94話

この世界は地獄かも知れない。どこに行ってもそれは変わらないのかもしれない。それでも。


通りの外れにメルロックフェイカーは静かに佇んでいた。ヨナが近くに歩み寄ると、その流線形の車体が音も無く空間から浮かび上がって二人の姿を映し出した。定められた儀式のような動きで二人が乗り込む。言葉は交わさない。

局員たちの業務開始を告げる鐘の音が街中に鳴り響き、悲鳴も、メガジュークの音色も爆発も、全てをほんの一瞬だけかき消して日常が顔を出す。門出であり、出棺を告げる鐘の音であった。


ヨナがアクセルペダルを踏み込むと、オレンジ色の灯がゆっくりと左から右へと流れていった。



 ハイウェイへと続く道は既に平和贈呈局員たちによって封鎖されていた。街中で行われている破壊行為に対して、素早く動員するための処置だった。


ヨナは少しのためらいもなくそれを突破し、メルロックフェイカーの車体をハイウェイへと乗せ、ペダルを踏んだ。

おびただしいサイレンと警告灯の光が二人を追ったが、この街で最も交通量の多い301の合流地点に差し掛かった時、それらは下方で大きな渦を巻いていた。


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