自称パチプロの無職が命掛けのギャンブル〜ロシアンルーレットで6回引き金を引いた伝説〜

@koukiman

第1話

スポーツ、料理、政治、ゲーム等、どの分野にも一流と呼ばれる人間はいる。

そう、それはギャンブルにも…


ーーーーーーーー


思わず目を瞑ってしまうほどの眩い光を発光する機械の前で、銀色の玉と戯れている男がいた。


その男の名は海藤 健二(かいとう けんじ)。

25歳にもなって、無職である。

しかし、彼は無職の身でありながらも、お金には困っていなかった。

特別、裕福な家庭に生まれたわけでもない。

誰からお金をもらっているわけでもない。

借金をしているわけでもない。

不労所得で稼いでるわけでもなかった。


そのため、どういった方法で働かずに生計を立てているか?

と彼はよく質問される。


そんな時、彼は決まってこう答えていた。

「ああ、その質問はよくされるよ。」

「その答えは単純、俺はパチプロなのさ。」

全く気まずそうな顔もせず、あっけらかんと。


パチプロとは、パチンコで生計を立てている者の事である。

納税しておらず、一般的に職業とは言えないので、無職と同意である。

当然、世間体も決して良いものでなかった。


しかし、彼は自分がパチプロであることに一種の誇りを持っていた。

パチプロは、誰でもなれるものではない。

そう思っていた。


彼はその日もいつもと同様に、

両手では数えられない程のドル箱に囲まれ、パチンコ店の中でも一際輝いていた。

(そろそろ流して、精算するか。)

ボソボソと独り言を呟いていると

ふと、彼に声をかけてきた初老の男性がいた。

「君、すごいねえ。

1週間ずっと見ていましたが、こんなにパチンコで勝っている人は初めて見ました。」


海藤は意気揚々と答えた。

「へへ、そうだろ。

俺はパチプロの中でも1番だからよ。」

単純な性格の海藤は、褒められて悪い気はしていなかった。


初老の男性は海藤の返事に対して、表情一つ変えずに、

「あなたさえ良ければ、ですが。」

そう前置きをして、話し始めた。


「あなたさえ良ければ、その素晴らしい腕で願いを1つ叶えてみませんか?」

「興味があれば、この電話番号に明日の15時までに電話してきて下さい。」

と言いながら、電話番号が書いてある名刺のようなものを渡してきた。


「はぁ?」

海藤は、受け取った名刺に書いてある文字に目を落としながら、そう言った。

そして視線を上へ戻すと、すでに初老の男性は居なくなっていた。


不思議な雰囲気を持つ男性だった。

発する言葉に妙な説得力があった。


無論、海藤にも怪しい話であることは分かっていた。そう、なんとも怪しい話である。

怪しい話ではあるが、なぜか頭から離れなかった。


(…まあ、明日電話だけでもしてみるか)

そう思ってしまうほど、なんともいえない魅力がある男性だった。


その日は帰宅後すぐに就寝した海藤であった。

しかし、海藤にしては、珍しく夜中に目が覚めてしまった。

(変な時間に目が冴えてしまったな)

そう漏らしながら、

改めて自分自身の願いを考えていた。


「俺は…何が願いなんだろうな…」


パチンコのおかげでお金にも、さほど困っておらず、生まれ持った端正な顔立ちで女性にもそれほど困っていない、そんな自分自身の願いが分かっていなかった。


ベランダに出て、ぼんやりと月を見上げながら、願いを考えていると…

少しずつ願いの輪郭が見えてきた。


あの人に…

俺を育ててくれたばあちゃんに恩返ししたいな…

…彼の母親は、彼を産んだ直後に亡くなっていた。父親は彼が3歳の時に蒸発し、その後は祖母に育てられていた。

祖母は海藤が18歳の誕生日の前日に亡くなった。

海藤はその後、パチプロになり自立していったため、祖母に何も恩返しできなかった事に後悔していた。

願いは、祖母に恩返しする事であると気づいた。


「って、何を真剣に願いを考えてんだ、俺は。

ありえねえだろ。ドラゴ●ボールじゃねーんだから。」

「しかも、こんな願い絶対叶えられない。

死んだ人を生き返らせろって、個人でもどんな大金持ちでも無理だろ。」


と、言いながらも、海藤はどんな途方のない願いでも、あの初老の男性なら叶えられるような気がしていた。

パチプロとして、生きていく上で培ってきた直感。

その直感がそう告げていた。


そして、名刺に書いてある番号に電話した。

夜中の4時にもかかわらず。


ワンコールもかかってない内に、すぐに若そうな女性が対応した。

「海藤様、お電話お待ちしておりました。

貴方様の願い、叶えることができます。」

「今から言う住所に明日の22時にいらして下さい。東京都葛飾区新小岩●丁目●番。」

「お、おい、ちょ、ちょっと待って、」

ガチャッ

ツーツー


海藤が言葉を言い終わらない内に電話は切れていた。


ーー名乗った記憶もなく、自身の願いも伝えておらず、夜中に電話してすぐに対応された事、不審な点はいくつもあったが、

気がつくと、当日言われた住所に足が吸い寄せれていた。


そこには、とんでもなく大きい屋敷があった。


(東京にこんな大きい建物あったっけ?)

巨大な建物の前で圧倒されている海藤に声をかける男性があらわれた。

「お待ちしておりました。海藤様。」

あの初老の男性である。


「あ!おっちゃん!俺、あんたに言われたから来たけどよ!ホントになんでも願い叶うのかよ!?」


「海藤様、貴方が色々と質問したいのは、分かりますが、詳しい事はどうぞ中でご説明させて頂きます。」


玄関の堅牢なドアが開き、巨大な屋敷が海藤を吸い込んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る