第3話〈明日からの日々に向けて〉
昼食はサンドイッチとスクランブルエッグだった。
料理長の
献立表を見てみると確かに小麦が多い。
唯一惜しいのは、根菜の煮物が少ない点だろうか。
明日からお仕事だから、今日はゆっくり休む。
とは言っても、どう過ごそう。
手紙はもうとっくに書き終えて出してしまった。
家にいる時はだいたい兄の誰かが騒いでいてとても賑やかなのに、一人になると急に静かだ。時間の流れもとても遅く感じる。
「粘土……トランクに持ってくれば良かったなぁ」
粘土があれば、趣味の埴輪作りをして時間を潰せるのにと悔やむ。
持ってきた荷物は最低限の必需品と着替えくらいだ。趣味の道具や娯楽品はトランクには入れてこなかった。
とりあえずベッドにごろんと転がり、ぼうっと天井を見ながら明日からの仕事をする自分を妄想していた……。
軽やかな音でドアを叩く音が響いた。
返答を待ってみたものの、しんと静まり返っていたのでドアをそっと少しだけ開け、中の様子を見る。
部屋の照明はつけられておらず、カーテンは開いたままだった。
さらにドアを開けてみると、ベッドに眠っている精霊の姿があった。
「……埜夢ちゃん?」
声に気がついて目が覚めたようだ。
「……は、あ、
「うん。ごめんね起こしちゃって。夜ご飯の時間だから、部屋にいれば誘おうかなと思って」
「だ、大丈夫です! いつの間にか寝ちゃってました」
埜夢はベッドから起き上がり、カーテンを閉めるだけ閉めて梓と一緒に食堂に向かった。
今日の夜はコロッケとカレーライス。煮物ではないが、根菜がふんだんに使われていて埜夢の頬が幸せに包まれていた。
「……そういえば、部屋に白い髪の精霊がいたんですよね」
「白い髪? ……あー、もしかしてあの子かな」
「ご存じですか?」
「うん、その子も一応埜夢ちゃんの同期だよ。空き部屋だったから使ってたのかもね……」
空き部屋、というより自分に割り当てられていない部屋に堂々と入れるのもすごいなぁと思いつつ、同期という言葉に引っかかる。
「じゃあ、学舎で一緒に働くってことでしょうか?」
「そうだね。少し、その……フリーダムなところがあるけど、根は優しい子だから安心して」
梓が言葉を選ぶように言う。
悪い精霊ではないというのは出会ってから数秒間の雰囲気でも伝わった。だが、フリーダムな性格……自分のしたいように振舞ってしまう精霊らしい。
そんな精霊が、学舎で働けるのだろうか。
帰りの廊下に玄関の前を通りかかると、青色の髪を揺らした精霊が近くをキョロキョロと見渡していた。
梓を見つけると二人の元に駆け寄ってきた。
「こんばんは、夜遅くにすみません。学舎の方に忘れ物をしてしまいまして、一時的に鍵を開けていただけませんか?」
精霊はスカートの裾を持って丁寧にお辞儀をして、梓に尋ねる。
「まあ、場所はどこか分かる?」
「おそらく、会議室の方です」
「分かったわ。埜夢ちゃん、私学舎の方に戻るから、そのまま部屋に戻ってて。明日のことは昼間に渡した紙を見て」
青い髪の精霊と一緒に行くため、埜夢と別れた。
青い髪の精霊は埜夢と目が合うと、軽く微笑んで小さくお辞儀をした。その仕草に埜夢は思わずドキッとして、恥ずかしそうにお辞儀を返した。
部屋に戻った後、しばらく精霊の表情が頭から離れなかった。
(き……きれいな精霊だった……)
学舎と言っていたから、あの精霊も自分の同期なのだろう。
そう思うと、緊張して眠れなくなってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます