Seventh shot 学校にやってきた美少女警備隊

 やっぱり案の定!!


 門の前に、ルナ、ミラ、マルの三人が難しい顔をしてたたずんでいる。

 うちの学校の男子たちは、そんな彼女らに声をかけるでもなく、でも通り過ぎることもできず、興味津々の様子で遠巻きにしていた。


「あっ、貴賀さん!」


 俺を見つけたルナが、途端に硬い表情を解き、両手を振った。

 校門にたむろする男子生徒が、一斉に俺を振り向く。


 「こんなしょぼくれた男が、あの美少女の知り合い?」「何でこんな奴が、あんな可愛い子に手を振ってもらってるんだ?」……言葉には出さずとも、全員の顔がそう言っている。

 妬みと羨望の視線を浴びながら、俺は三人の元へ駆け寄った。


「こんなとこで、何してんの!目立ちすぎだよ!極秘行動じゃなかったの?」


 生徒がどっと外に出てくる下校時に、金髪と赤毛と青毛の超絶美少女が校門の前に現れれば、人目を引いて周囲を賑わすのは当然だ。


「そんなこと言うたかて、これが反応してるんやからしょうがないやないの!」


 マルが手にしている生体放射エネルギーセンサーのモニター部分が点滅し、表示された判読不能の文字が目まぐるしく変化している。


「この建物の中にいるんだよ。あいつらが」


 不機嫌そうに、ミラが校舎を指差した。


「ウソだろ!?」


 血相を変える俺と、ミラたちとの会話を、周囲の男子が耳をそばだてて聞いている。こんな場所で話を進めてちゃまずい。


「ちょっと、みんなこっちに」


 俺は三人を押しやるようにして、片側一車線の道路を隔てて校門の正面にある月極パーキングに移動した。十台ほど駐車できるスペースには、三台しか停まってなくて、人もいなかった。

 校門にいる連中は、さすがにここまで付いては来ない。


「一体どういうこと?」

「貴賀さんが出ていった後、わたしたちも昨夜の打ち合わせ通り、市街地の海岸エリアを東から西へ歩いて捜索にあたったんだけど、空振りで……。さっき港まで戻ってきて、今度は内陸部を探そうと、南へ歩き出して間もなくセンサーが」


 真顔に戻ったルナが、マルの持つ生体放射エネルギーセンサーに目を落とす。


「俺の学校に、あのキュラス星人がホントにいるの?」

「それは疑う余地がないぞ。お前にはこのモニター表示の意味がさっぱりわからないだろうが、二匹以上のキュラス星人がいることを示しているんだ」

「二匹以上って、どのくらいいるか正確にわからないの?」

「もっと近付かなきゃ無理だな。このセンサーは半径二百メートル以内の対象物を感知するのには優れてるが、複数が近接もしくは密集してたりすると、数を判別するのには時間がかかる」

「君たち高等生物の作った機械にしては、案外不便なんだな」

「何だと!」


 俺の嫌みに対して敏感に反応したミラを、ルナが「まあまあ」となだめる。


「なあ、貴賀はん、あんたさんの学校で不審な人物の心当たりはあらへんの?」

「不審な人物なんて……思い付かないというか、意識したこともないよ」

「一か月前。キュラス星人がこの街にやってきたのは、そのくらいの時期よ。あなたの学校に新しくやってきた人物、誰かいない?思い出して!」


 ルナのすがるような目に触発され、俺は記憶の糸をたぐり寄せた。

 一か月前と言えば、ちょうど新学期が始まった頃か……新学期なら、確かに人の出入りはあったぞ。


「えっと……美術を担当する男性教師と、保健室に詰める女性の養護教諭、それに男性の学校用務員が新しくなって、始業式で紹介されてたっけ」

「教師を含む学校スタッフが三人ね。ほかには?」

「あとは生徒ってことになるけど……二年生に転校生はいなかったように思う。でも、一年生と三年生については、誰かに聞かなきゃ全然わかんないや」

「自分の学校の中のこともわかんないのか?頼りにならない奴だな」

「あのね、俺の学校には教師や学校用務員だけで七十人、いや八十人くらいの人間がいるし、一年生から三年生までの生徒数は千人近くにのぼるんだ。自分の学年以外のことなんて、詳しく知ってる訳ないだろ」

「ふん、たかが千人くらいの小規模組織も頭で把握できないなんて、それはお前が三等級以下の下等動物だからだ」

「あのな〜〜〜〜」


 プイと横を向いたミラと、食ってかかろうとする俺の間にルナが割って入る。


「ちょっと!こんな時に言い合いしてる場合じゃないでしょ!ミラさんは口が過ぎるわ!貴賀さんももっと冷静になって!」

「ほんまやで、ミラちゃん。三等級より下のレベルの惑星に住む生命体も、あてらと同じように道徳的な地位や権利を持ってるんや。そういった生命体が無分別な差別にさらされて自由を侵害されたり、虐待を受けたりせえへんように、あてらは愛護精神を持って広い心で接するようにせんとあかんやないの」

「そんなこと、マルに言われなくたって。あたいも極力友好的に接してるつもりだけどさ」

「ううん、ミラちゃんの態度ではまだまだ不十分や。相手の知能がなんぼ低うても、あてらはそれに合わせてコミュニケーションするように努めんと」

「だよな。そりゃ、わかってんだけどさ……」


 ルナになだめられて一旦は興奮がおさまりはしたものの、ミラとマルの会話を聞いていると何だかまた無性に腹が立ってくる。そんな俺の感情を察して気を逸らそうとしたのか、ルナがジャケットの袖を軽く引っぱった。


「貴賀さん、わたしたちに学校の中を案内して!中にキュラス星人がいるのは確かなんだから、どんな人間に化けてるのか早く特定しないと」


 そうだ、肝心なのはそっちだ。


「うん、わかった。でも、見つけたからって、生徒や教師が大勢いる校内で戦闘を始められたら困るよ。昨日の戦いで荒らしちゃった公園の惨状がニュースにも取り上げられてるみたいだから、これ以上騒ぎが広がるとマスコミや警察に目を付けられて面倒なことになるかも」

「その辺は心得てるから心配しないで。捜索は目立たないようにするし、発見してもすぐ行動は起こさず、人のいないタイミングを見計らって捕獲に入るから」

「キュラス星人は、君たちの姿を見れば宇宙警備隊だってすぐに気付くよね?」

「う〜〜〜〜ん、そこはどうかしら。オーラを正確に分析されたり、戦闘コスチュームだったりしたらすぐにわかるだろうけど、わたしたちは地球人の私服を着てるし、顔だけ見てすぐ判別するのは難しいんじゃないかな」

「えっ、どうして?そんなの一目でわかるんじゃない?」

「わかるのは同種族同士くらいよ。地球人と綺羅星人の姿形はたまたま同じだから、単純化して言えば同種族。だから、わたしたちの間でなら判別できる。でも、キュラス星人は全然違う異種族。地球上でも、人間以外のフォルムをしている別種族の生き物、例えば集団でいるニホンザルの顔を見て、それぞれの個体差をすぐに見分けられる?ライオンやアザラシはどう?」

「そんなの無理だよ。みんな同じ顔に見えるし」

「でしょ。異種族の個体差はなかなか見分けられない。それはキュラス星人も同じ」

「てことは、この街に住む誰かそっくりに変身して、身代わりになるなんて芸当は難しいの?」

「無理ね。千差万別の地球人の顔を正確に見分けられないんだから、完全なイミテーションにもなれないわ。せいぜい、地球人であることを誰からも疑われない程度の変身能力なのよ」

「なるほど……」

「さあ、納得してくれたら、行きましょ」

「わかった。校門にはまだ人が一杯いるから、そのセンサーを少しの間、隠しておいてよ」

「そやな。物珍しい道具に興味を持たれて、集まられても仕事の邪魔や」


 マルはそう言ってデイパックを下ろし、センサーを中に入れてから再び背負う。


「よし、行こう」


 俺は三人の先頭に立って道路を渡り、校門に戻った。


「お、大鳶、この子たち、お前の知り合いなのか?」


 野次馬に混ざって校門の下にいた棟田が、調子外れの声を上げた。


「ま、まあな。ひょんなことから縁があって……また今度説明するよ」


 説明するって言っても、本当のことは明かせないから、適当にごまかすだけになっちゃうんだけど。

 放っといたらそのまま付いてきそうな棟田を「じゃあな」と振り切って、校門を潜ろうとした時だ。


「こら、待てい!」


 野太い声が、俺たちの動きを止めた。

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