Fifth shot 宇宙から来た吸血鬼

「楽器……じゃないよね」

「演奏会やないんやから、そないな物出してどうするのよ。これは、生体放射エネルギーセンサー。キュラス星人が体から発散する独特な放射エネルギーを感知する機械やの。あいつらが変身したり、貴賀はんも見た高密度エネルギー弾を発射したりする力は、他の生命体が持つ生命エネルギーを吸い取ることで得られるねん」

「生命エネルギーを吸い取るだって?」

「どんな惑星に住む生物でも、体からは目に見えん霊的な生命エネルギーを放射してるんえ。日本語では〝オーラ〟とも言うわな。地球人には無理やろうけど、あてらもキュラス星人ほどやないにしろ、オーラの形や色をちょっとは見る力を持ってんねん。で、キュラス星人ちゅうのは、自分の種族以外の生命体からオーラを吸い取り、それを主食として生きとる奴らなんや」

「それって、まるで吸血鬼じゃ……」

「あ、それやそれ、吸血鬼。この地球でも、古い民話や伝説に出てくるやろ。人の血は命の根源とされてるさかい、それを吸う魔物は吸血鬼と呼ばれてるわな。血もオーラも同じ生命の根っこや。そやから生命体の血や精気を吸う生き物を総称して、あてらは〝ソウルイーター〟て呼んでる。地球の吸血鬼伝説も、案外昔この星に流れてきたキュラス星人の先祖がルーツになってんのかもしれへんで。あいつらは、あの長い鼻と体から突き出てる何本もの吸引管を相手にくっつけてオーラを吸引するんやけど、その光景は何回見てもほんまに不気味やわ」

「吸引されたら、どうなるの?映画やアニメなんかでは、吸血鬼に血を吸われると同じ吸血鬼になるって言われてるから、キュラス星人みたいな姿にされちゃうとか?」

「そないなアホなことになるかいな。それに、オーラは魂そのものやないから、すぐに死んだりもせえへん。ただし、生命を維持するのに必要なエネルギーやから、大量に吸い取られると心身が極端に弱るやろし、もっとひどうなったらすぐ病気にかかる体質になって寝たきりになるか、精神に異常をきたして自殺するか、まあどっちにしろ遠からず命は落とすやろなぁ」

「でもさ、襲われた人は黙ってないだろうから、大騒ぎになるよね」

「いいや、それがあいつらは吸い取るのと同時に特殊な分泌液を相手に注入して、その前後十分くらいの記憶を消すことができるんや。吸われた相手は、何にも思い出せんまま、普段通りの生活を続けるねん」

「げっ、ひょっとしたらさっき、俺も吸い取られちゃったのかも。奴が鼻と管をこっちに向けた途端、金縛りにあったみたいに動けなくなったし。君たちが助けに来てくれて、金縛りが解けた直後、腰が抜けたように力が出なくなった……」

「少しは吸われたようだけど、鼻や管が体に密着してないなら、問題ないわ。それに、貴賀さんのオーラは平均的な地球人が発する量よりとても多いように感じる。これって、オーラが比較的強いとされる惑星の住人と比べても、飛び抜けて高いと思う。だから少々吸われたって、大丈夫。時間が経てばまた元どおりになるから、安心して」


 一瞬焦ったけれど、ルナに優しくそう言われると、心も落ち着く。安心したら、また次なる疑問がわいてきた。


「この街にキュラス星人がやってきたのはわかったけど、一か月も前のことなら、奴らだって足があるんだし、ずっとここに留まってるとは限らないんじゃないの?公園にいた奴以外は、もうとっくにどこか遠くの場所に逃げちゃったんじゃない?」

「いいえ、まだみんなこの街にいるわ。超能力を出せないよう、オーラは生命維持に必要な最低限の量だけ残し、護送前に宇宙警備隊の留置所ですっかり抜き取られてるから、自力で逃走を続けるだけのパワーはない。それに、宇宙船を簡単に手に入れられないこの星では、まず超能力を十分に出せるだけのオーラを体内に蓄えることを優先させるはず。地球人一人が有するオーラの量は、彼らにとってはごくわずかなの。空っぽの状態から、地球人への変身を続けて正体を隠しながら、ある程度の量を貯めるには、少なくとも二か月はかかるはずよ」


 何てこった……俺はとんでもない事件に巻き込まれてしまったのかもしれない。


「キュラス星人は変身できるって言うけど、君たちも変身したよね?今の私服から、銀色のコスチュームに。武器とかいろいろ持ってさ」

「変身というより、正確には戦闘モードへの転換ね。わたしたち綺羅の国星人は、エレミュレーター光線を体に受けることで、他の惑星人には出せない超人的な能力を一定時間得られるの」

「エレ……ミュレタ光線?」

「エレミュレーター光線や。ほれ、これを見てみいな」


 マルが、デイパックの中から取り出した、一番大きな箱形の機械を指で示す。


「これがエレミュレーター光線を発生させる超小型核融合炉なんえ」

「核?融合炉?って、そんな物騒な物が、こんな小さい箱の中に収まってるの?」


 俺は、箱から少しでも遠ざかろうと、ベッドの上を座ったままの姿勢で後ずさる。


「心配せいでも、放射能なんかこれっぽっちも漏れるかいな。元々は人工太陽を作る実験の過程で十万年ほど前に作られた装置やったから、最初のプロトタイプはこのマンションの百倍くらいの大きさやったらしいわ。そのうち、この原子炉から発生する一部の光線、エレミュレーター光線て言うんやけど、それを綺羅の国の住人が浴びると、悪影響をな〜んも受けることなしに超人的なパワーを得ることが偶然発見され、平和利用の目的で宇宙警備隊が創設された、ていう訳やの。核融合炉も、今ではこないにコンパクトな形になったんえ」

「エレミュレーター光線をあたいたちが浴びると、体が強化され、パワーが増大するだけじゃなく、アポートとアスポートの力も出せるようになるんだ。アポートっていうのは別の場所にある物体を取り寄せる力で、アスポートは持っている物体を別の場所に送り出す力。お前が変身だと思ったのはそれで、地球用の平服と、武器や防具で完全武装した戦闘コスチュームをアポート・アスポートで取り替えただけのことなんだよ」


 自慢気に説明するミラの後を、ルナがさらに引き継ぐ。


「エレミュレーター光線から超人的能力を得られるのは、住環境の影響による体質のせいなのか、宇宙広しと言えども綺羅の国の住人だけなの。この超小型核融合炉から発生する光線は、事前登録したわたしたち三人だけに直接照射されるようセッティングされてる。エレミュレーター光線は、特定条件下でプラズマを発生させる性質も持っていて、わたしたちが装備する武器や防具もそれを動力源にして使用できるようになってるわ。わたしの持つプラズマソードは、刃の部分が軽くて硬いうえ、耐熱性がとても優れてるチルソナイトという合金でできていて、刀身部分をプラズマ化することで対象物を例え金属でも溶断できる。ミラさんが持つプラズマガンは収束したプラズマを射出する武器。分子破壊投射機はプラズマによって作り出された電磁的光子を浴びせる道具だけど、完全に静止している対象物でないと効果がないから武器としては使えない。マルさんのプラズマシールドも、プラズマエネルギーのバリアを展開することで防壁を作れる。要はプラズマによって機能を発揮する物ばかりなのね。でも、光線を浴びたからといって、ずっと力を使えるのでもない。これだけ小さな原子炉だから、出力にも限界があるわ。戦闘モードの場合、戦えるのはせいぜい一時間といったところかしら」


 わかったようなわからないような、空想科学の世界……ん?何だか昔に見聞きしたことのあるような話だ。


「それって、俺が子どもの頃にテレビでよく見てた特撮ヒーロードラマの『ウル○○マン』シリーズの内容と似てるなぁ。遙か遠くにある星雲から、特殊な光線を浴びて超人になったウル○○戦士たちが、地球の平和を守るためにやってきて、ピンチになると巨大化し、破壊光線を体から出して凶悪な怪獣をやっつける、っていう。どっちかがパクり?」

「バカか!十万年前から警備隊やってるこっちの星がパクる訳ないだろ!大抵、三等級以下の星では、そういった空想小説や空想ドラマの一つや二つは大衆娯楽として作るもんだ。あたいたちは巨大化したり、光線を吐いたりもしないぞ。それこそ化け物じゃないか!」

「まあまあ、ミラさん落ち着いて。貴賀さんは光線を吐くなんて言ってないし。それに、あながち単なる空想じゃないのかも」

「どういうことだよ、ルナ?」

「だって、八万年前から地球が属する銀河系は、宇宙警備隊の管轄内に入ってるのよ。わたしたちから見れば相当に低いレベルとは言え、地球人が文化的な生活を始めたのは五万年前。それから現在までの間、銀河系を担当するわたしたちの先輩隊員や国の惑星生態調査員が地球に下り立ったことは何度もあったはず。その姿や使命や発達した科学が何かの手違いでごく一部の地球人に知られ、誇張した物語として伝承されている、とも考えられるじゃない」

「確かにルナちゃんが言うことにも一理あるけど、確率はえろう低いえ〜」

「だよな〜、マル」

「ちょっとちょっと、マルさん、ミラさん、今はそんな話の確率論を討議してる場合じゃなく、わたしたちの話を包み隠さず聞いてもらった貴賀さんに、協力をお願いしなきゃ。さっきようやく一人を見つけて殺処分したとはいえ、逃走してるキュラス星人はまだ四人もいるのよ。このまま放置しておけば、きっと次から次へ地球人を襲い、犠牲者はどんどん増えていくわ」

「そりゃ、まあ……な」

「貴賀はん、どないどすのん?地理不案内のあてらを、よもや見捨てるやなんて?」


 三人にしっかと見つめられ、しかも事情が事情だけにすっぱり断れるような状況でもない。


「いや……その……公園では助けてもらったし……俺にできることがあるのなら、その範囲内で手伝うよ。でも、俺なんかが何の役に……」

「ありがとうございます!」


 満面の笑みをたたえ、ずずっと進み出てベッドに乗ったルナが、正座して俺の両手を強く握り締める。


「右も左もわからないわたしたちにとって、百万の味方を得た思いです。それでは早速で恐縮ですが、貴賀さんのこの部屋をわたしたちの仮の基地にさせていただきます。しばらくの間、わたしたちが寝泊まりすることでご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします!」

「寝泊まりって、この部屋で?三人一緒に?」

「はい!」


 ルナの笑顔がさらに弾ける。


 ええっ!?ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

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