人造サラリーマンの青春

河過沙和

きっかけ

 会社のあるオフィス街に向かう電車の中で私はふと思った。毎朝乗るこの電車の中にどれだけ人造人間が混じっているのだろうかと。

 人造人間…SF世界の話であるとされた存在が技術革新によって販売される商品と化したのは数十年前の話だ。彼らは専用の派遣会社から雇用主の依頼によって派遣され契約の期間だけ働く、契約社員といった風の働き方をするように法律で義務付けられている。

 少子高齢化と経済の後退、それに伴う人口の減少。当時ようやく人としてのひな型を形成する技術ができた程度の人造人間を製造する技術が急速な成長を遂げたのは焦った政府が国家的計画として大規模な資金的、技術的な支援を行ったことが背景にある。

 そういうことがブラウザの上のほうに出てきたサイトに書いてあった。今までも人造人間と仕事をしたことはあったし、興味がなかったわけではないが調べようという気が今までなかったのだ。人造人間が社会に進出し始めた時分の人ならともかく私の生まれた時代にはもうすでに彼らがいるのは当たり前だったし日常だった。多分チーフに次の記事のお題目を自分で決めて持ってこいなんて言われなければ調べもしなかっただろう。

 そんなことを考えているうちに会社についた駅から徒歩15分くらいの小さな雑居ビルの3階に小さいにくせにやたら派手な色で視聴新聞と書いた看板を掲げているところが私の職場だ。ビルの外装と同じく年季の入った階段を上り、看板と同じく派手な色で視聴新聞の文字の入ったすりガラスのはまった木戸を開けると目の前にはデスクと椅子、パソコンそして所狭しとおかれた本とホッチキスで止められた資料の山が飛び込んできた。

「おはようございます!チーフ!」

 声を掛けると奥のデスクの資料の山がうごめいたかと思うと小柄な男が飛び上がり勢いよく椅子に座った。

「おはよう!林君!テーマは決まったかね?」

 彼は織田正孝、自称数々の賞を受賞してきた新聞記者であるらしいのだが色々あってここで小さな新聞社を経営している。本人曰く体制にすり寄るのが許せなかったとか。

「人造人間で行こうとおもいます」

「人造人間?また珍妙で面白いことを言うなぁ林君は」

 

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