第8話 騎士団のお偉い様
れんとパーティーを組んでから数日、ようやく二人で依頼を受けることが出来た。
本来なら結成翌日から依頼を受けるつもりだったが、色々あって日を空けることになってしまった。
一番の原因はドラゴンダイブを使用した反動が重く、万全の状態に回復するまで時間がかかってしまったことだ。激震竜からダメージを受けることはなかったものの、やはり竜気を使ったのは大きい。
治療手段も確立していないため、回復しようと思えばもう寝る以外にない。
そういうわけで回復に数日を要したわけだが、もう依頼をこなして問題ないくらいに回復出来た。
「そろそろ来ると思ったが・・・」
諒は読んでいた本をベッドに放り投げて窓の外を眺める。
今回依頼の受注はれんに任せていた。受注の際に参加者が全員いなくても問題はない。一応該当者は参加欄に名前を記入する必要はあるものの、それも本人が書かなくとも大丈夫だった。
なんとも言えない制度だが、今はかなりありがたい限りだ。
行けばいいだけの話でもあるのだが、諒には今ギルドに行きづらい理由があった。
カー―ン!
「ん、来たか」
少しの間窓から人の往来を眺めていると玄関の方から呼び鈴が鳴った。
予想通りれんが来たみたいだ。諒は手早く机の上を片付けてから玄関に向かいドアを開ける。
「・・・」
「お初にお目にかかります。霧矢諒さんで間違いないですか?」
「・・・ええ。騎士団が一体何のようで?」
一瞬思考が止まった。
れんだと思い込んでドアを開けると、そこにいたのはれんよりはるかに大きい男だった。目線を下げていただけにその衝撃はさらに大きい。
しかもさらに奇妙なのは男の服装。身につける銀の鎧と左腕に刻まれている片翼のマークは騎士団のもので間違いない。
騎士団はギルドよりもさらに大規模な組織だ。ギルドはモンスターを専門にしているのに対し、騎士団は対人間を専門にし、人の世の秩序を保つことを目的としている。
似た組織でありながらやっていることはまるで違う。
そして、両組織の仲も芳しくない。ギルドは自分で言うのもあれだが素行に問題がある奴はそれなりに多い。いわば社会のはみ出し者の受け入れ地のようなところなのだ。
そんな奴らは当然騒ぎを起こして騎士団のやっかいになることも多々ある。
そのせいで騎士団からギルドはかなり白い目を向けられる現状となっている。そんなわけで騎士団の人間がギルドの冒険者である諒のところに来ることにあまり良い予感はしなかった。
かなり身構えてはいたが、意外にも男の表情は明るかった。敵意や悪意は感じない。まるで「そんな警戒しなくてもいいよ」と言わんばかりに笑顔を浮かべて諒に封筒を手渡す。
「・・・これは?」
「読んでみてください。騎士団上層部からのものです」
随分と上の人間から用があるようだ。一体何が目的なのかと諒は封筒を開く。そこに書かれていたのは騎士団への勧誘の話だった。
「一体どういうことですか?」
「平原に出現した激震竜ステンブラス。それを単独で撃破した噂は騎士団にも届いています。それだけの実力を持つ人間は多くありません。それをならず者の集まりで置いておくのは勿体無いとのことです」
「・・・なるほど」
諒が最近ギルドに顔を出せない理由がまさにこれだった。
実際激震竜を討伐したのは諒ではないのだが、ギルドではそう処理されたらしい。
おかげでとんでもない実力者がいると話題になり、勧誘話が後を絶たなくなってしまった。れんとパーティーを組んだし諒はどこにも行く気はない。だがそんな彼の意思は他人にとっては関係ないものだった。
それにしてもこの間士から除名書を見せられたばかりなのに、まさかこんな勧誘の手紙を見せられるとは、中々複雑な思いだ。
しかもそこに書かれている金額も中々のものだ。なんとしてでも諒を手に入れたい騎士団の本気が伺える。
「一応聞いておきますが、勧誘の条件はこれだけですか?」
「その金額は過去例を見ない程の額です。ですが、それからさらに上乗せも可能だということは聞いておりますが・・・」
「そうじゃない。金を見せれば付いてくると思われてるなら随分と舐められたものだ。金しか見せるものがないならこの話は早めに諦めてください。そんな奴らの下で働こうとは思いませんから」
金が大事ならAランクから抜けようとは思わない。それを選んだ時点でそんな見栄えは捨てていた。
そもそも諒は金に物を言わせるやり方が気に入らなかった。勧誘をきっぱりと否定し、男に封筒を突き返す。
金額は男も知っているのだろう。全くなびくことのない諒の返答に驚いたようだったが、すぐにその表情に笑顔が戻る。
「やはり僕がここに来てよかった」
「・・・どういうことですか?」
「申し遅れました。僕は騎士団親衛隊隊長、九条大我(くじょうたいが)と申します」
「・・・そんな大物がわざわざ」
そこで初めて大我は名乗った。
騎士団親衛隊、騎士団の中でもエリート中のエリートだ。団長直属の部隊であり、秘密裏に何かをやっていると話は聞いたことがあるが、実態は謎に包まれている。
その隊長がこの男、体格は確かに鍛えられている事はわかるが、それでもそこまでガタイがいいわけでもない。表情にも覇気があるわけでもなく、どう見てもそこらへんにいる優男という印象を受ける。
かなり意外だった。だが大我はそんな諒の目も気にすることなく言葉を続ける。
「こうして会って改めて騎士団に引き入れたくなりましたが、どうやらそうしない方がよさそうだ」
「・・・それは一体どういう風の吹き回しで?」
「騎士団は秩序を守る組織、当然我々に課せられる規律も厳しいもの。しかしあなたに規律は似合わない。あなたは他でもない自分の意思に従って世界を明るく出来る。そんな人は騎士団よりギルドにいた方がいい。非常に悔しいことですがね」
「そう言っていただけるのは嬉しいですね」
話の分かる奴、最初はそう思ったが少し違うとも思えた。
大我もおそらくは諒と同じだ。彼もまた自分の意思に従って行動している。騎士団の規律は彼にとって絶対なものではない。しかし本来それは許されるものではない。
だからこそ自分がそうでありながら諒の事は諦めるつもりなのだろう。
随分と大変そうな境遇だ。同時に確かに窮屈そうだ。そんなところに入るのは勘弁したい、改めて諒はそう思った。
「そうだ、最後によろしいですか?」
「ええ、答えられることなら」
「・・・私と一太刀交えませんか?あなたの実力、ぜひとも見せてもらいたい」
「・・・」
そういうと大我は腰に下げられていた剣に手をかける。
その目は先ほどまでの笑顔はいつの間にか消えていて、相手を委縮させてしまうような威圧的な強いオーラをまとっていた。
先ほど親衛隊に似合わない優男と思ったことを素直に謝罪したいくらいだ。それほどの豹変ぶりだった。
その目を向けられて諒も反射的に手を刀の柄にかけていた。お互いしばらく口を開かず、臨戦態勢で視線を交える。
どちらかが一瞬でも手を動かせば戦いが始まる。それほどの緊張感が周囲を包んでいた。
息の詰まる圧迫感が頂点に達した時、ふと諒は表情を崩して臨戦態勢を解く。大我は少し意外そうに目を丸くしたが、少し遅れて彼も剣から手を離す。
「やめておきましょう。こんなところで剣を抜くのは気が乗らない。それに、俺には先客がいるもので。申し訳ないが今日のところはお引き取り願おう」
「・・・先客?」
諒は大我から目を離して階段の方に目を向ける。
彼と目が合ったれんはどうしていいかわからない様子で階段の影に顔を引っ込めてしまった。
大我もれんの存在に気付いたのか、彼女を見た後再度諒に視線を戻す。
「彼女が先客ですか?」
「ええ、俺の・・・相棒です」
「・・・そうですか。では僕は大人しく帰りましょう。いつかまた会えることを楽しみにしてますよ、諒さん」
「ええ、あなたなら歓迎しますよ」
諒の相棒という言葉に大我は何か思うところがあったのか、笑顔で頷くとれんの隠れている階段の方に歩いて行った。
何か最後に彼女と話していた気がしたが、その内容までは聞き取れなかった。
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