第3話 採取依頼

 央都セントリアから北に歩いて約1時間。諒は目的地であるマロウの森に到着して採取に取り掛かっていた。

 作業開始して早々にほとんどの採取は完了させていた。久しぶりの採取だが経過はかなり良好だ。

 ここはEランクの冒険者のみならず、許可があれば一般の人間でも入れる超安全地帯だ。さらに植物が育ちやすい環境が整っているらしく、色々な植物をここで採取することが出来た。

 しかし、そんな安全地帯でありながらもここは誰でも入れるフリースペース、というわけではない。特殊地帯の1つに分類されている森だった。

 その理由はこの森の特殊な環境にある。このマロウの森は奥へ、厳密にいうと中心に近づくにつれて危険度が増していくのだ。

 中でも中心に生息する「ヌシ」と呼ばれるモンスターは世界でトップクラスの化け物らしい。諒は直接出会った事は無いが最高ランクのパーティーでさえも返り討ちにあったという話は聞いたことがある。

 その性質上、知識の足りない初心者や思慮の浅い無謀者は侵入を制限されているのである。

 この環境を形成する理由として確かなことは判明していないようだが、どうやら外環に植生を持つリラックス効果のある植物が要因といわれている。

 モンスターはほぼ例外なくそういった癒しの香りを嫌うようなのである。それを避けてどんどん中心に移動し、そこで住みかを奪われたモンスターが徐々に外環に移動していく・・・といった生態系を成しているらしい。


「・・・薬草、こんなに見つからないものか?」


 考えている間にもさらに作業を進めていた諒だが、最後の薬草の採取に苦戦していた。確かに数多の植物が存在するこの森で、特定の植物が見つからないのはよくあると言えばそうなのだが、ちょっと異常なほど見つからない。このままだとモンスターの生息域にまで足を踏み入れることになりかねない。


「これは、同業者が来たか、それとも・・・」


 薬草を食べるモンスターはいなくはないが、このあたりにモンスターの気配は感じなかった。だとすると、同じ冒険者がこの森に踏み入って同じルートで薬草を集めたといったところだろうか。意外な苦戦を強いられたが、まあ多少なら危険域に侵入してもいいだろう。侵入してもあまり深くまで行かなければ相手のランクもEか高くてもDだ。その程度なら諒の敵ではない。

 そう考え、諒はさらに奥に向けて足を踏み入れた。


「ん・・・あれは・・・」


 安全域と危険域の丁度境目といったところまで歩いたところで諒は人影のようなものが目に入った。人間だった気もしたが、危険域が近いこともあって念のため1度身を潜める。

 そのまま少しの間様子を伺うが、向こうが動く気配はない。影から顔を出して再度確認してみると、やはり誰か倒れているようである。

 それも冒険者だ。こんな所に一般人が護衛も無しに入ることはないし、そいつのすぐそばに弓が落ちていることからも確定だろう。

 武器の所有を許されているのは冒険者と騎士団員、その他1部の人間だけだ。騎士は全員決まった制服があるからわかりやすい。

 少し様子を見ていたが、やはり動く気配はないので、諒は冒険者に近づいて声をかける。


「おい、こんなところで寝てたら風邪どころじゃ済まないぞ」


 是非ともただ眠っているだけであれと願ったが、完全に気を失っているようだ。危険域が近いとはいえモンスターが出現するのはまだ先のはず。奥でモンスターに襲われて逃げてきたか、イレギュラーな何かにあったか、何にせよここで意識を失った人間と出会うのは想定外だ。

 1応周りを見渡したが、モンスターの気配は近くにはないようだ。少なくともそれなりに時間が経っているだろう。

 安全確認を終えて改めて諒は詳しい容態を調べるために冒険者の顔を覗いた。


「・・・女の子?」


 そこで思わず諒は動きを止めた。

 女性の冒険者はそう多いものではない。ソロで行動している人間はもっと稀だろう。それもあって完全に男だと思い込んでいたのだが、キレイな長い青髪と華奢な体つきで男ということはないだろう。

 しかも多分年齢は明美よりも年下だ。この年で冒険者になるのはさらに稀だ。本来はまだ親元で大事に育てられる年齢であり、こんな血生臭い戦いを伴う仕事とは無縁のはずなのだ。にもかかわらずそうなっているとは、一体何があったのやら。

 一通り驚いたところで諒はあらためて少女の容態を調べた。外傷は左腕に打撲のような痕があるが、気を失うほどひどいものではない。顔色も良くはないが、目立った異常はそれくらいだった。

 おそらくは、物理的な何かより精神的なものの影響が強いのだろう。取り敢えず左腕の怪我には薬草で応急処置を施した。

 まだ少女は目を覚ましそうにない。容態を考えればもうじき目を覚ますだろうが、さすがに放置して立ち去るのは躊躇われる。

 諒は少女を背負って街まで運ぶことにした。依頼は最悪後でもいいだろう。時間制限があるわけでもない。


「まったく、思わぬ拾いものをしたものだ」


 久々にマロウの森を訪れたせいか、帰り道が少しそれていたようだ。やらかしたかとも思ったが、おかげで足りなかった依頼の薬草を見つけられたので結果オーライだった。

 意外なところで幸運を拾ったことでやることも済み、自然と足取りも速くなっていた。

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