4-17. ドラゴン降臨
広間の会議テーブルで桃のタルトを切り分け、食べながら雑談をしていると、ガチャッと音がして、上の階の部屋のドアが開いた。出てきた中の一人に見覚えがある。チェストナットブラウンの美しい髪の毛をフワッとゆらしながら歩いてくる……ヴィーナだ。
ヴィクトルとレヴィアはガタッと立ち上がり、背筋を正してヴィーナが階段を優雅に降りてくるさまをじっと見つめていた。
「おまたせー」
ヴィーナは透き通るような白い肌に琥珀色の瞳を輝かせながら、にこやかに手を振る。
「お忙しいところすみません!」
レヴィアは頭を下げた。
「いいのよぉ。あー、君が大賢者? ずいぶんと可愛くなっちゃったわねぇ」
ヴィーナはうれしそうに笑う。
「その節はありがとうございました。今日はお願いがあってまいりました」
ヴィクトルは深く頭を下げて言った。
「あー、ついに愛する人を見つけたんだって? 良かったじゃない」
「はい、それで……、彼女を生き返らせていただけないかと……」
「レヴィア、彼女の情報を頂戴」
ヴィーナは事務的な口調でレヴィアを見た。
「メッセンジャーで今送りました」
「どれどれ……?」
ヴィーナは空中に黒い画面を浮かべると、パシパシと叩いた。
「あら、可愛い娘ねぇ……。この娘のどこが気に入ったの?」
「優しい所とか……健気な所とか……それでいて芯があって賢いんです」
ヴィクトルは照れながら言った。
「決め手はおっぱいじゃな」
レヴィアは下品な顔でニヤッと笑う。
「そ、そんなことないです!」
ヴィクトルは顔を真っ赤にして否定した。
「分かりやすい子ね……。もう触ったの?」
ヴィーナも意地悪な笑みを浮かべ、悪ノリして聞く。
「が、我慢しました……」
ヴィクトルは耳まで真っ赤になった。
「ふふっ、真面目ねぇ……。ただ……、生き返らせるのは自然の摂理を曲げること……。気軽にはできないわ」
ヴィーナはヴィクトルをじっと見つめる。
「僕ができることなら、何でもやらせていただきます!」
ヴィクトルは必死に訴える。
「何でも?」
「何でもです!」
ヴィーナはヴィクトルの瞳の奥をのぞき込む……。
ヴィクトルの目には揺るがぬ決意が浮かび、ヴィーナは少し懐かしそうにそれを眺めた。
そしてニコッと笑うヴィーナ。
「前よりいい目してるわね。いいわ。生き返らせてあげる。何してもらうかは……ちょっと考えさせてね」
そう言うとヴィーナは画面をパシパシと叩いた。
「あ、ありがとうございます!」
ヴィクトルは涙目になって頭を下げた。
「あれ? この娘、二人いるわよ。全く同じデータで二人……。どういうこと?」
レヴィアが焦って説明する。
「ヒルドという元副管理人が彼女を乗っ取ったので、その時にバックアップか何かを残したのではないかと……。私の方でどっちが本物か調べてみます!」
「いや、いいわ。面白いじゃない。大賢者、あなたなら本物はどちらか見破れるんでしょ?」
ヴィーナはニヤッと笑ってヴィクトルを見た。
「もちろんです!」
ヴィクトルはしっかりとした目でヴィーナを見かえす。
「よーし、それじゃ、ルコアちゃんカモーン!」
ヴィーナはそう言って右手を高く掲げ、何かをつぶやいた。
直後、ボン! という爆発音がしてマンションの壁や屋根が吹き飛ぶ。
「うわ――――!」「ひぃ!」
壊れた天井の部品がバラバラと落ちてきて、騒然となる。
そして、爆煙の中から現れたのは二頭のドラゴン。その厳ついウロコに覆われた巨体、鋭い爪と牙は、オシャレなオフィスには似合わず異様な光景を見せた。
「え――――っ!? 何よコレ!!」
叫ぶヴィーナ。
「
ドラゴンに倒された棚の下敷きになってる男性が、ヴィーナに怒った。
「知らないわよ! なんでドラゴンなのよ!?
ヴィーナが不機嫌そうに答える。
「あ――――! パパ――――!」
シアンがピョンと跳んで棚を起こし、誠と呼ばれた男性を救出する。
ヴィクトルはドラゴンに駆け寄ると、
「ルコア! 人! 人になって!」
と、呆然としている二頭のドラゴンに向かって叫んだ。
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