4-10. ファイナルアプローチ

 微調整を続けながら飛ぶ事十分、真っ赤に輝くまぶしい太陽が顔を出した。昼のエリアに戻ってきたのだ。広がるのはどこまでも海、地球は本当に海の惑星なのだ。

 やがて陸地が見えてきた。雲間にジャングルのような鬱蒼とした森が続いている。


「さて、そろそろ本格的に降りるぞ」

「わかりました」

 ヴィクトルは進行方向を少し落としていった。

 強くなる風切り音と激しく光を放ちだすシールド。その熱線はシールドを何枚も重ねているのにジリジリとヴィクトルたちをあぶった。


「アカン! このままじゃ蒸発してしまうぞ!」

 レヴィアが弱りながら言う。

 ヴィクトルは氷魔法を展開し熱線を遮ったが、鮮烈な光線の輝きはどんどんと悪化し、氷魔法では追いつかないほどの熱線が強烈にヴィクトルたちを襲う。

 直後、ボン! という破裂音がしてシールドが一枚吹き飛んだ。


「ヤバいヤバい! シールドを守らんと!」

 焦るレヴィア。

水壁ウォーターウォール!」

 ヴィクトルは、水魔法を展開し、前方に水の壁を出現させた。水の壁は超音速でぶち当たってくる激しい空気の圧縮にさらされ、瞬時に蒸発し、吹き飛ばされていくがその際に熱も奪ってくれるようで、熱線は少し和らいだ。

 しかし、水魔法を延々と使い続けないとならないのは、ヴィクトルには負担だった。

「MPがそろそろヤバそうです! あとどれくらいですか?」

「あと三分我慢しろ!」

 レヴィアは遠くに見えてきた暗黒の森をにらみながら言う。

「三分!? くぅ……」

 ヴィクトルは片目をつぶりながら両手を前に出し、熱線に耐えながら水の壁を張り続けた。

 直後、激しい閃光が地上から放たれる。

「敵襲! 急速回避!」

 レヴィアが叫んだ。

「へぇっ!?」

 ヴィクトルは仰天した。大気圏突入でいっぱいいっぱいなのに、敵襲なんて手に余る。

「これでどうだ!?」

 ヴィクトルは金色の魔法陣を前方に斜めに出し、方向を強引に変えた。

 ぐわぁぁ! ヒィィィ!

 いきなりの横Gで体勢が崩れかけ、そのすぐそばをエネルギー弾がかすめていった。

「あっぶない……」

 ヴィクトルが胸をなでおろしてると、

「何やっとる! 集中砲火されとるぞ!」

 と、レヴィアが叫んだ。

 見ると無数のエネルギー弾が群れになって押し寄せてくる。ヒルドの徹底した攻撃は恐るべきものだった。

「こんなの無理ですよぉ!」

 ヴィクトルは泣きそうになりながら叫んだ。

「くっ! 仕方ない!」

 レヴィアは何かをつぶやき、いきなり風景が変わった。

「えっ!?」

 驚くヴィクトル。どうやら場所を少し移動したようだった。だが、速度はそのまま、シールドは灼熱で輝き続けていた。

「我ができるのはここまでじゃ。早くあの島へ……」

 見るとレヴィアはまたミニトマトサイズに戻ってしまい、弱っていた。

「ありがとうございます! あの島ですね!」

 前方には、弓状に長く続く砂浜の向こうに小さな島がぽつんと浮かんでいた。

 ヴィクトルは覚悟を決め、一気に高度を落とす。

 激しくかかるGと、爆発的に閃光を放つシールド。まさに命がけのファイナルアプローチだった。

「ぐわぁぁ!」

 レヴィアが叫ぶが、構わず多量の水を浴びせながらまっすぐに江ノ島へと降下して行く。

 もたもたしていたら撃墜されるのだ。限界を攻める以外活路はなかった。

 ヴィクトルは険しい表情で水魔法を全力でかけ続ける。

 ズン! パン!

 次々破損し、飛び散るシールド……。

「シールド追加じゃぁ!」

 レヴィアが叫ぶ。

「無理です! 水魔法を中断できません!」

 ヴィクトルは冷や汗をかきながら、残り一枚となったシールドがきしむのをじっと見つめていた。


 真っ白な雲をぶち抜き、ブワッと視界に真っ青な海面が広がる。


 ドン!

 衝撃音がして発熱が収まっていく……。

「帰還成功……じゃ。地球へ……ようこそ……」

 レヴィアが疲れ果てた声で言った。音速以下へ速度が落ちたらしい。


 なんとか、最後の一枚でギリギリ耐えきったのだ。

「よしっ!」

 勢い余って海面を何回かバウンドしながら、ヴィクトルはガッツポーズを見せた。


       ◇


「ヒルドが来る、急げ!」

 レヴィアに急かされ、ヴィクトルは江ノ島の崖に開いた洞窟へと海面スレスレを高速で飛んだ。

 洞窟は海面ギリギリに口を開けており、ヴィクトルは波が引いたタイミングを見計らいながら一気に突っ込む。

 洞窟は入ると上の方へと続いており、しばらく上がると広間になっていた。

 ヴィクトルは広間に着地し、魔法で明かりをつけて見回していると……、


 ズン!

 いきなり巨大地震のような激しい衝撃に襲われた。上から石がパラパラと落ちてくる。爆撃を受けているようだ。


「急げ! そこの隅の床の石を持ち上げるんじゃ!」

 ヴィクトルは急いで、床石を吹き飛ばして転がした。

 すると現れる漆黒の穴。井戸のようでもあったが、底の見えない不気味な穴が姿を現した。

 直後、入り口付近が爆破され、爆風がヴィクトルたちを襲う。

 ぐはぁぁ!

 そして、吹き飛ばされるように穴へと落ち、ヴィクトルは意識を失った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る