3-5. 龍のウロコの願い

 二人はカフェにやってきて、早めのランチにする。

 ルコアは昨日と同じくベーコンを五本である。


 コーヒーをすすりながらヴィクトルは、サイクロプスの魔石を眺めた。

「ウロコが要るのかしら?」

 ベーコンをかじりながら、ルコアがジト目でヴィクトルを見る。

「悪いねぇ」

 ヴィクトルは手を合わせた。

 ルコアは口をとがらせながら、アイテムポーチから黒く丸い板を出す。

「はい、高いわよ~」

 ヴィクトルはありがたく受け取って、そのキラキラと輝くウロコを眺める。ウロコには年輪のような微細な模様が入り、まるで黒曜石のような重厚な質感を持って、陽の光を浴びて不思議な光を放っていた。

「うわぁ、綺麗だねぇ……」

 思わずヴィクトルはため息を漏らすと、

「柔肌の方が……、もっと綺麗よ……」

 そう言ってルコアは、いたずらっ子の笑みを浮かべながら、胸元を指先で少しはだけさせた。

「うわ、ダメだよこんな所で!」

 ヴィクトルは頬を赤らめながら周りを見回した。

「うふふ、じゃ、後でゆっくり……ね」

 ルコアはニヤニヤして胸元を整えた。

「いや、見せなくて大丈夫だから……」

「あ、一つ言うこと聞いてもらう約束ですよ?」

 ルコアはドヤ顔でニヤッと笑う。

 ヴィクトルは真っ赤になってコーヒーをグッと飲んだ。


        ◇


「持ってきましたよ」

 食後に、ヴィクトルは防具屋へ行って、店主にウロコと魔石を渡した。

「えっ!? 本当か!? 坊主すごいな!」

 店主はウロコを明かりに透かし、ルーペで拡大し、ジッと見つめる。

「おぉぉぉ……、本物だ。質もいい。暗黒龍のウロコなんてどうやって手に入れたんだ?」

 店主は感嘆して聞く。

「ちょっと伝手つてがありまして……。暗黒龍の方が普通の龍よりいいんですか?」

「そりゃぁ当り前よ! 暗黒の森の王者、暗黒龍の魔力はこの世で最高クラス。ウロコにも長年かけて上質な魔力がしみ込んでるからね」

「へぇ、暗黒龍ってすごいんですね」

 そう言ってルコアをチラッと見る。

 ルコアは胸を張って得意げである。

「暗黒龍に勝てる人間なんてこの世にいないからね。その人はどうやって手に入れたんだろう?」

「龍の願い事を聞く代わりに一枚貰ったらしいですよ」

 ルコアが横から余計な事を言う。

「龍の願い事……? 一体それは何なんだ?」

「さぁ……。幸せな時間を一緒に過ごすとかじゃないですかねぇ……?」

 ルコアはそう言ってニコニコしながらヴィクトルを見た。

 ヴィクトルは渋い顔をする。


「幸せな時間? なんだか哲学的だなぁ」

「そう、愛は哲学ですね」

 ルコアは幸せそうに目をつぶって言った。

「まぁいいや、坊主! 採寸してやるからそこへ立って」

 店主はヴィクトルの身体を測り、メモっていく。

「すぐに大きくなるから、ちょっと大きめで発注しような」

 店主はニコッと笑ってヴィクトルの顔をのぞき込む。

 そして、ウロコを丁寧に布袋にしまうと、

「さっそく職人さんに出しておくよ。出来たらギルドに言付けしとくから」

 そう言ってヴィクトルの頭をくしゃくしゃとなでた。


      ◇


「もぅ、余計な事言うんだから……」

 店を出ると、ヴィクトルはむくれてルコアに言った。

「ふふっ、いいローブが手に入りそうで良かったじゃないですか」

 ルコアは悪びれもせずに言う。

「そうだけど……」

「でも、約束、忘れないでくださいよ」

 ルコアはうれしそうに言った。

「わ、分かったよ。早く決めてよ?」

「はいはい、何にしようかなぁ?」

 ルコアは銀髪をゆらしながら宙を眺め、幸せそうな表情を見せる。

 透明感のある白い肌はみずみずしく、日差しを浴びて艶やかに輝いていた。

 ヴィクトルはそんなルコアを見て、自然と笑みが浮かんでしまう。


       ◇


 二人は昼下がりの気持ちのいい日差しの中、石畳の道を歩いてギルドまでやってきた。

 ドアを開けると、ロビーのところで救出した冒険者たちとマスターが話をしている。

「お、噂をしたら何とやらだ。ありがとう」

 マスターはそう言ってにこやかに右手を差し出した。

 ヴィクトルは握手をすると、

「変な噂じゃないでしょうね?」

 そう言って四人をジロリと見た。

「い、いや、無事に戻ったという報告だけです! 本当です!」

 ジャックは必死に説明する。

「彼の言う通り、私は何も聞いてないよ。本音を言えば聞きたいが……、約束は約束だからな。ただ、君が頼もしいことだけは良く分かった」

 マスターはそう言ってニヤッと笑った。

「私は目立たずひっそりと暮らしたいので、目立たせないで下さいよ」

 ヴィクトルは渋い顔をする。

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