3-4. 固まる上級魔人
キノコ雲が霧消していくと、ヴィクトルは爆心地に飛んだ。焼けただれ、焦土と化した丘には巨大なクレーターがあり、ポッカリと大穴をあけていた。見ると、大穴の底には広大な広間が見える。なんと、ダンジョンの次の階層にまで穴をあけてしまったようだ。
ヴィクトルはやり過ぎたことを反省し、大きく息をつく。
その後、探索の魔法を使って魔石を探したが、サイクロプスの魔石は一つしか見つけられなかった。
飛び散ったか壊れたか……、ヴィクトルはこの狩り方は止めようと思った。
◇
ヴィクトルは戻ると、冒険者たちのシールドを解く。
すると、彼らは口々に、
「ま、魔王様……」「魔王様お許しを……」
と、焦点のあわない目で言いながら、ヴィクトルに許しを請い始めた。
「いや、ちょっと、僕、魔王なんかじゃないから!」
ヴィクトルは必死に言ったが、冒険者たちはおびえて話にならない。
すると、ルコアは、
「主さまは魔王なんかじゃないわ。魔王なんかよりずっと強いんですよ! 頭が高いわ!」
と、余計な事を言う。
「ご無礼をお許しください!」「大変失礼いたしました!」
冒険者たちは土下座を始めてしまった。
ヴィクトルはため息をつき、得意げなルコアをジト目で見ると、
「もう、帰るよ」
と、言った。
ヴィクトルは床にシールドを展開すると、冒険者たちを乗せ、クレーターの上まで飛んだ。
「ねぇ、ルコア。あそこから帰れる?」
ヴィクトルはクレーターの底を指さして聞いた。
「あらまぁ! ダンジョンの床を貫通なんてできるんですね!?」
ルコアは目を丸くする。
「こんな構造になっていたなんて初めて知ったよ」
「私も初めてです。行ってみましょう」
一行はクレーターの奥底に開いた下のフロアへと降りて行った。
◇
降り立つとそこは広大な広間だった。いわゆるボス部屋という奴だ。
奥の壇上には豪奢な椅子があり、そこに魔物が座っていたが……、魔物は一行におびえ、固まっていた。
いきなりとてつもないエネルギーで天井をぶち抜かれたのだ、ヴィクトルは少し申し訳なく思った。
「あら、アバドンじゃない……」
ルコアはそう言うとスタスタと魔物に近づいた。
「あ、ルコアの
アバドンと呼ばれた魔物は頭を下げた。どうやら知り合いらしい。
「ゴメンね、穴開けちゃった」
「あー、大丈夫です。自然と修復されますんで……」
「出口はどっち?」
「そちらです。今開けますね……」
アバドンは手のひらで奥の扉を指し、ギギギーっと開けた。
「ありがと、また、ゆっくりとお話しましょ」
ルコアはニッコリとほほ笑んだ。
冒険者たちは驚愕した。言葉を話す魔物、それは上級魔人であり、Sクラスのパーティーでも簡単ではない魔物だ。そんな天災級の災厄がルコアに頭を下げている。
美しく流れる銀髪に澄みとおる碧眼、見るからにただ者ではない雰囲気ではあったが、まさかここまでとは想像をはるかに超えていたのだ。
そして、その彼女が仕える金髪の可愛い子供はさらに強いはずだ。さっきの大爆発などほんの序の口に過ぎないだろう……。
ジャックはとんでもない人に軽口をたたいていた自分を深く反省し、改めてゾッとする恐怖でガタガタと震えていた。
「主さま、行きましょ!」
そう言うと、ルコアはヴィクトルの手を引いてドアから出ていく。
冒険者たちは、アバドンに何か言われないかビクビクしながら後を追った。
◇
ドアの外のポータルから地上に戻ってきた一行。
「ここからはもう自分達で帰れるね?」
ヴィクトルはジャックに聞いた。
「は、はい! ありがとうございました!」
ジャックは緊張し、背筋をピンと伸ばして冷や汗を流しながら答えた。
「くれぐれも今日見たことは……、わかったね?」
ヴィクトルは鋭い目でジャックを射抜いた。
「も、もちろん! 神に誓って口外は致しません!」
ジャックは目をギュッとつぶりながら誓った。
「約束破ったら……、王都ごと焼いちゃう……かもね? うふふ……」
ルコアが横から物騒なことを言う。
「決して! 決して! お約束は破りません!」
ジャックは冷や汗でびっしょりである。
ヴィクトルはちょっとやりすぎたかなと思いつつ、トンと地面を蹴ると、一気に空に飛んだ。
ルコアもついてくる。
「ルコア、さすがに王都は焼かないよ」
軽やかに飛びながらヴィクトルは言った。
「うふふ、ああいう輩には強く言っておいた方がいいのよ」
ルコアは銀髪をたなびかせながら、あっけらかんと答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます