2-10. 世界を統べる真龍

 さらにiPhoneの画面を操作するヴィクトル。すると、大きな黒い影がいきなりやってきて女の子を襲い始めた。

「あ! 何これ?」

「ワイバーンだわ! 逃げて!」

「ヤバいヤバい!」

 しかし、女の子はワイバーンの火にあぶられてあっさり死亡……。

「あ――――!」「ありゃりゃ……」

 画面が暗転し、死亡の案内が表示される……。

「ごめん……、殺しちゃった……」

 落ち込むヴィクトル。

「死ぬのは普通の事だからいいんですよ!」

 ルコアは明るく言ってなぐさめる。


 宇宙人が作ったというiPhone。そして、その中で生き生きと躍動するゲームの女の子。それは素晴らしい物だった。しかし……、ヴィクトルはこれの持つ意味のあまりの重大さに、これを一体どうとらえたらいいのか分からず、途方に暮れた。


 と、その時、遠くで誰かの悲鳴がする。


「キャ――――!」

 何だろうと声の方を見ると、何か巨大な物が金色の光をボウっとまといながら飛んでいる……。

「え? まさか……」

 ヴィクトルは冷や汗がジワリと湧いてくるのを感じた。

 金色のそれは巨大な翼をバッサバッサと羽ばたかせながら近づいてくる……。急いで鑑定をかけると、


レヴィア レア度:---

神代真龍 レベル:???


 何だかメチャクチャな結果が返ってきた……。

「ルコア……、いらっしゃったみたいだけど……、店には入らないぞ?」

「あれ、まぁ……、いつ見てもカッコいいわぁ……」

 ルコアはニコニコしている。

「うわぁ!」「ド、ドラゴンだぁ!」

 通りの人たちが上を見上げ、口々に叫んだ。

 やがてドラゴンは速度を落とすことなく、通りにまで降りてきてヴィクトルたちの目の前まで迫る。そして、通り過ぎざまに、真紅に光るギョロリとした巨大な瞳でヴィクトルをにらむと、


 ギュワァァァ!!

 と、テーブルが揺れだすような重低音で叫んだ。そして、つむじ風を巻き起こしながらバサッバサッと羽ばたき、上空へと飛びあがっていった。

「うわぁぁ!」

 ヴィクトルも店の人も大慌てである。

 この世界を統べる巨大生物がいきなり現れて、すさまじい咆哮ほうこうを放ったのだ。さすがのヴィクトルも顔面蒼白になり、ただ、その飛び先を見つめていた。


 ドラゴンはやがて夕闇の中へと消えていく……。

 どんなに強くなろうがアレには絶対に勝てない。本能がそう告げていた。まさに次元の違う強さを見つけられてひざがガクガクと揺れる。


 すると、いきなり空間がツーっと裂けた。

「へっ!?」

 ヴィクトルの見てる前で空中がペリペリッと割れたのだ。そしてその向こうから指がニョキニョキと生えてきて、グイッと裂け目を広げる。

 その奇怪な事態にヴィクトルは凍り付いた。


「よいしょっと!」

 空間裂け目の向こうから現れたのは、十三歳くらいの金髪おかっぱの女の子だった。

「え?」

 唖然あぜんとするヴィクトルを尻目に、女の子はルコアを見ると、

「お待たせちゃん!」

 そう言ってルコアにハグをした。

 ルコアもニコニコしながら女の子を受け入れる。

「も、もしかして……」

 ヴィクトルは女の子に鑑定をかけてみた。


レヴィア レア度:---

神代真龍 レベル:???

メモ:何度も見るなエッチ!


 ヴィクトルはメモを見て呆然ぼうぜんとした。一体どうやったらこんな事ができるのか、大賢者なのに全く想像もつかなかったのだ。神代真龍の圧倒的な能力に言葉を失うばかりだった。


「紹介します! 私の主さまです~」

 ルコアは手のひらでヴィクトルを指すと、レヴィアに紹介した。

 金髪おかっぱの女の子は、クリッとした赤い目でヴィクトルをジッと見つめる。きめ細かい透き通るような肌に、整った目鼻立ちには、幼いながらドキッと感じさせるものがあった。

「は、はじめまして……」

 ヴィクトルがあいさつをすると、

「あー、お主、アマンドゥスじゃな。ずいぶんと……若くなったのう」

 レヴィアはそう言ってヴィクトルをなめるように見た。

「えっ!? 主さまが大賢者!?」

 驚くルコア。

 あっさり見破られたヴィクトルは、苦笑いをしてうなずいた。

「なんじゃ、ルコアは正体も知らずに仕えとったんかい」

 レヴィアは呆れる。

「確かに普通じゃないなって……思ってましたよ?」

 すねて口をとがらせ、ルコアはヴィクトルをジト目で見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る