2-9. 不可思議な黒い板
「ちょっと待ってくださいね」
ルコアは手を拭き、アイテムポーチから小さな黒い板を取り出す。手のひらサイズの板は片面がガラスとなっており、周りが金属で重厚感があった。
ルコアがガラス面をタンと叩くと、いきなり明るい色鮮やかで、にぎやかな模様が浮かび上がる。
「うわっ! 何それ?」
ヴィクトルは今まで見たことのない精緻な光のイリュージョンに衝撃を受けた。そんな魔法は見たことも聞いたこともなかったのだ。
「え? iPhoneよ?」
ルコアは当たり前かのように言うが、百年以上生きてきた大賢者でも全く何だか分からない不思議な代物だった。
「あ、あいふぉん? どういう魔法……なの?」
ヴィクトルは恐る恐る聞く。
「あはは、これは魔法じゃないですよ。魔法のない星で作られたものですから」
ヴィクトルは絶句した。なんと、この星の物ではないらしい。宇宙人の作ったもの……。宇宙人がいたなんて初めて知ったし、宇宙人は魔法のない世界でこんな不思議なものを作っている……、それは想像を絶する事態だった。
「こんばんはぁ、ご無沙汰してますぅ……。はい……。はい……。いえいえ、いつも助かってますぅ……。あ、そうではなくてですね、今からステーキ食べに来ませんか? あ、いや、実は会っていただきたい人が……。え? はい……。それは大丈夫です」
話からするとレヴィア様を呼んでいるらしい。なぜiPhoneでレヴィア様と話ができるのか全く分からなかったが、ヴィクトルはジッと聞き耳を立てた。
「いつものお店ですよ……。そうです、王都の……。はい。分かりました。お待ちしてますぅ」
そう話すと、ルコアはiPhoneを耳から離し、
「すぐ来て下さるって!」
と、嬉しそうに言った。
「え? すぐ来るの? でも、レヴィア様って龍……なんだよね? まさか龍のまま来たりしないよね?」
するとルコアはあごに人差し指を当て、
「うーん、そこまで非常識では……うーん……」
と、悩んでしまった。相当に非常識らしい。
ヴィクトルは嫌な予感がした。
ルコアはiPhoneをポーチにしまおうとする。
「あっ! ちょっと待って! それ……見せて欲しいんだけど」
ヴィクトルは手を合わせてお願いする。
「え? いいですよ」
そう言ってルコアはまたiPhoneを起動し、スクリーンをフリップした。
「こうやって指先で画面をなでたり叩いたりして使うんです。この一つ一つのアイコンがアプリで、電話したりチャットしたりゲームしたりできますよ」
「ゲーム?」
ヴィクトルが聞くと、ルコアは、アイコンを一つタップする。それはRPGゲームだった。
「例えばこういうゲームがあります。主さまやってみます?」
そう言ってまず、ルコアが模範プレーをした。
画面には可愛いアニメ調の女の子が、岩山の中腹を駆け回っている。するとむこうの方に棍棒を持った猿がうろうろしているのが見えてきた。
ヴィクトルはその精緻な画面、グリグリ動く可愛いアニメ調キャラクターに圧倒される。まるでこの板の中に新たな世界が誕生した様な、異様な状況に言葉を失っていた。
ルコアはタンタンと猿をタップする。すると、女の子は弓矢で猿を攻撃し、程なく猿はアイテムを落として消えていった。
「ね? 簡単でしょ? やってみて!」
ニコッと笑うとルコアはヴィクトルにiPhoneを渡した。
「が、画面を叩くだけでいいの?」
ヴィクトルは初めてのiPhoneに、おっかなびっくり触れてみる。
「そうじゃなくて指を付けたままこうグーンと……」
ルコアはヴィクトルの手を取って操作を手伝った。
「うわぁ……、すごい……」
自分の操作したままに、縦横無尽に駆け回るアニメ調の女の子……。
そして出てくる猿。
「あ! なんか出た!」
「叩いて叩いて!」
「え? これ、そのまま叩くだけ?」
そう言いながら猿をパンパンと叩くと、女の子が弓を射って猿を倒した。
「何これ!? すごく……面白いよ!」
興奮するヴィクトル。
「あはは、あまりやり過ぎないでくださいね」
ルコアはそう言って、楽しそうなヴィクトルを幸せそうに見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます