第四章 カウマイは淵である ~小学校五年生の記憶~
第23話 殺人犯
「おい……どうしたんだよ?」
僕たちの狂乱を恐ろしげに眺めていたシノが、恐々と声をかけてきた。
「黒須はいたのか? 璃奈は……? 大人はいたのかよ?」
夕貴は何度も廊下に顔を出していたが、やがて青ざめた顔をシノのほうへ向ける。
「……黒須は死んでいた。……たぶん」
シノは何を言われたかわからないように、口を開けたままぽかんとして夕貴の顔を眺めた。
「死んでいた?」
夕貴が微かに頷くのも目に入らないかのように、シノはもう一度繰り返した。
「死んでいた?」
闇が音もなく広がる不気味な沈黙のあと、シノは呟いた。
「……え? 何で……? マジで? 本当に死んだのか……?」
黙っている夕貴と体を縮めて震えている僕を、シノは交互に見る。その顔には、作りの悪い仮面のようなひきつった笑いが浮かんでいた。
僕たちが「冗談だよ」と笑い出すのを待つようにシノはしばらくそのままでいたが、やがて半ば茶化すように半ば哀願するように言った。
「え……? 何だよ? 死ぬって……。死ぬわけねえじゃん、あんなにピンピンしていたのに。どうせ廊下に隠れているんだろ」
「出るな!」
無理に笑いながら扉を開けようとしたシノを、夕貴が鋭い叫びで制する。
シノの表情が僅かに反抗的なものになったが、夕貴の顔が青いのを通り越して真っ白になっているのを見て言葉を失った。
扉を開けようとした姿勢のまま、ただ夕貴の顔を見続ける。
「出るな」
夕貴は、今度は囁くような小さな声で言った。
それからほとんど聞こえないような密やかな声で付け加える。
「誰か……いるかもしれない」
「誰か?」
夕貴の言葉に、シノだけではなく僕も顔を上げる。
誰か?
夕貴は圧し殺した声で言った。
「黒須を……殺した人間が……」
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