童話のような恋がしたい
雨玉すもも
1.放課後の赤ずきん
第1話
──二年三組、
皆は好きな人とか恋とか忙しいけれど、私はそれどころじゃありません! ──
抜き打ちの小テストに惨敗する事、三回。
私は窓際の一番前の席に着き、窓の
クラスメイトは部活に行ってしまって、私ひとりが残っている。
寂しいっていうか、何ていうか──。
──あー……暇だー……。
居残りを命じた数学の先生もやる事があるとかで涼しい職員室に戻ってしまったし、見張りもいない。
教科書で扇いでみても汗は止まらないし、しかも若干重いので疲れる。
私は首に掛けていた赤いスポーツタオルの端を掴んで、汗を拭いた。
その時、髪の毛の先が手をくすぐった。
結構伸びたなー、最近だと一番長いかも。
肩につかないくらいのボブくらいの髪の毛──頭の上にスポーツタオルを被せて、もう一つため息をつく。
ぺら、と居残り用のプリントを掲げてみた。
開け放たれた窓の外、青い空が後ろにあるため逆光でプリントの数字達がよく見えない。
よく見えても解読不能ではあるけれど。
あ、飛行機雲ー。
そうだ、と私は机に向かってプリントを折った。
全く躊躇がないな、と自分でも少々呆れるけれど手は止まらなくて、綺麗に綺麗に折っていく。
久しぶりに折るなぁ、なんて思いながらあっという間に完成した。
先端は尖ってると危ないから折り曲げている紙飛行機だ。
経験上、これが一番よく飛ぶ。
私はまた、ちら、と窓の外に広がる青い空を見上げた。
飛ばしてしまってもいいけれど、さすがにいけないな、と飛ばす振りだけで手からは離さない。
「よし、休憩しよ」
紙飛行機を机に置いて背伸びをしてから、私は席を立った。
※
五百円玉をスカートのポケットに入れて廊下に出ると、やっぱりここも私ひとりだった。
両手を広げて綱渡りのように真っ直ぐに、大股で歩いてみる。
他の人がいたらこんな事はしないけれど、ひとりだと不思議とやってみたくなる。
廊下の窓から生徒の声が聞こえてくる。
部活動中の生徒の声は、頑張ってる声は、聴いてて心地良い。
ここは教室棟の二階だ。
一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階となっている。
二つある階段の教室から近い方を鼻歌混じりに降りている──その時だった。
げっ、先生っ!
私は階段の曲がり角で、ぴたっ、と止まって手すりに体を隠す。
その先生は私を居残らせた数学の先生だ。
どうやら手元の資料みたいなのを読んでいたため私に気づく事なく、右から左へと通過していく。
はー……焦ったー……。
私はこの先生が苦手だ。
厳しくて説教が長いのだ。
教室を抜け出したのがバレたら、くどくどくどくど、何と言われる事やら。
それでも一部の生徒からは人気があるらしくて、鋭い目つきに八重歯が特徴的なので、狼みたい、だとか。
そんな数学の先生の背中を見送って、私はまた一つ安心のため息をついた。
──狼に見つからないようにしなきゃ。
なんて、少し笑って残りの階段を一気に飛び降りた。
と、ちょっとバランスが崩れて二、三歩よろめいたその先で──。
「──わっ!?」
「あ、やばっ!」
タイミングよく、見えない左側の壁から人が出てきてぶつかってしまった。
びっくりして瞬時に止まったけれど、肩同士が当たってしまって、その人は床に手をついて転んでしまっていた。
「ごっ、ごめん! 大丈夫!?」
「は……はい」
その子は一年生の女の子だった。
各学年で上履きの爪先の色が違うのだ。
その子の上履きは一年の緑色、二年の私は赤。
ちなみに三年生は青色だ。
「怪我は?」
「な、ないです」
「よかった。ごめんねー。はい」
差し出した手に一年生はおずおずと掴んで起き上がった。
俯きながら鞄を肩に掛け直して、スカートを直して、その目が私と合った。
わー……この子、かっわいー……っ。
目が、くりっ、としていて、栗色の髪の毛に黒いカチューシャをしている。
「ありがとうございます──あ」
すると一年生は床に落ちていた何かを拾った。
その握った手から鎖が見えて、私はネックレスか何かかな、と思った。
「せ、先輩さんは怪我とか、ないですか?」
「ん? ないない」
ほっとしたように一年生は息を吐いて、ちょっと笑ってくれた。
「……あ、あの、急いでて不注意でした。驚かせてすみませんでした」
「ううん。急いでるとこごめんね!」
そう私が言うと、一年生は思い出したかのように、はっ、として階段を降りた先にある下駄箱を見て、一礼してその場を後にした。
あんなに急いで、約束でもしてるのかねぇ。
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