焦り

「そろそろ帰る?」

 私は貴亮に声をかけた。今は2人で砂浜に座って海を見ながらぼーっとしてたところ。まだ夕日は沈んでなかったけど帰る時間も考慮するともう帰り始めなければ。今はすこぶる体調がいいけど夜は発作が起きやすいし。

 ん、と小さい貴亮の返事が聞こえた。私は海に最後の挨拶と思い、立ち上がって波打ち際へ足を進める。靴が濡れないように気をつけながらちゃぷちゃぷと水に触れる。

 海を見たまま貴亮もおいでよと声をかける。貴亮から応答がないから聞こえなかったのかなと思い振り返りながらもう一度名前を呼んだ。

「たかーあきー!…。え、貴亮!?貴亮!」

 そこには砂浜に横たわる貴亮がいた。私は貴亮に駆け寄る。名前を何回も呼ぶけど眉間に皺を寄せて苦しそうに目を閉じたまま。助けられるのは私しかいない。今、私にできることと必死に言い聞かせ、震える手と声で救急車を呼んだ。

 

 まるでドラマの世界に入り込んだようだった。誘導されるがままに救急車に乗って病院に運ばれて。貴亮の年齢とか倒れてた時の様子とかできる限りのことを救急隊の人に伝える。持病はあるかという質問には答えられなかった。貴亮も私のように秘密にしていたのかもしれない。ここで待っててください、と言われてドアの前に立ちつくす。私が入院してる時や発作を起こしたとき両親はこんな気持ちだったんだろう。でも、ひたすらに私のことを考えて行動してくれた。私にもできることをやらなくちゃ。

 後に駆けつけた貴亮のお母さんに救急車を呼んでくれて、私に連絡をくれてありがとうと何度も言われたから自分のした事は間違ってないと安心した。

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