恋敵?いいえ、恋仲間です
三郎
本編
第1話:私の好きな人には彼女が居る
私——
五つ歳上の
私はレズビアンで、彼女もレズビアン。それを彼女から聞かされた時、私にもチャンスがあるのではと思った。だけど、彼女から恋人が居ると聞かされ、恋心は告げることすら出来ずに散った。恋人が居るなら諦めなければ。そう思っていた矢先。
「ねぇ、美陸ちゃん。今日暇? ご飯食べに行かない?」
彼女から食事に誘われた。当然、誰か来るのだと思っていたが、二人きりだった。しかも個室。
「……愛海さん、恋人居るんじゃないんですか?」
「居るよ」
「居るなら……あんまり誰かと二人きりにならない方が良くないですか?」
「あ、大丈夫だよ。彼女には話してあるから」
「……本当に彼女居るんですか?」
「居るよ。写真見る?」
そう言って鞄からスマホを出そうとする彼女。気付けばその手を掴んで止めていた。
「……見たくないです」
「えー。惚気たくて呼んだのにー」
へらへらと笑う彼女。人の気も知らないで。
「っ……好きな人から惚気話聞かされるこっちの身にもなってくださいよ!」
バンッ! と、机を叩く音が個室に響いた。カッとなって、つい言ってしまった。彼女の迷惑になるからこの想いは秘めておこうと思っていたのに。
机を思い切り叩いたから手のひらが痛い。そして、心も痛い。涙が溢れる。彼女は黙ってハンカチを私の前に置いた。そして言う「私の恋愛観は一般的じゃないんだ」と。なんの話だと思って顔を上げると、へらへらとした誤魔化しの笑顔はそこにはなく、真剣な顔をしていた。
「今からする話は、君の聞きたくない話かもしれない。それでも私は聞いてほしい」
帰ろうと思っていた。だけど、彼女の真剣な眼差しが私を捕らえて離さなかった。
「……惚気話なら、帰ります」
「違う。私の話。私の——私と彼女の恋愛観の話」
「恋愛観?」
「……美陸ちゃんはさ、私が好きって言ったよね」
「……はい」
「付き合いたい?」
「……愛海さん、彼女居るんでしょ」
「うん。居る。私は彼女が好きだよ。だけど、君も好き。君とも付き合いたいと思ってる」
「は……?」
堂々とした浮気宣言に怒りが湧き上がる。そんな最低な人を好きになった自分に呆れた。そして、彼女の「分かってる。君も私のこと最低だって言うんでしょう」という被害者ぶった発言が私の怒りの炎に油を注いだ。思わず出た手は、彼女に止められる。
「私、今日はね、理解出来ないと君に罵られる覚悟でここに来たんだ。君に私のことを知ってほしいから。だからどうか、話だけでも聞いて。私は君の恋心につけ込んで、君を都合良く利用したいわけじゃない。……どうか、信じてくれないかな」
そう言って彼女は頭を下げた。ふざけているとは思えない真剣な声だった。彼女の瞳から落ちた雫が机を濡らす。その雫で、燃え上がっていた怒りの炎は、一瞬にして鎮火された。
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