第10話 誰でもいいって訳じゃないよぉ……
「でも、こんなに賑やかなのっていいよね、さくらちゃん?」
「そうですね。この商店街は楽しいですよ。寂しがってる暇もないくらい」
マリたち三人が、悲劇だか喜劇だかを繰り広げてる
沙羅からの労いに、さくらは苦笑を浮かべながらも、少しだけ、話題の方向を変えてみた。
「沙羅さんは、うちの高校の七不思議って聞いたことあります? 怪談じゃないほうのですけど」
「それって、伝説の先輩たちの話よね。その話なら、入学して早々にクラスで話題になってたけど……」
「はい、その七つの伝説のなかの三つが、ここにいるしのぶさんたちのことで……」
「しのぶさんたちのこと?」
「そうなんです。しのぶさんは一年の時に、いくつか、武道で全国制覇してるんです。マリ姉は、すぐそこにある大学に成績トップで合格しています。先生たちが開校以来の天才が現れたって大騒ぎしてたって聞きました」
「あれっ、あとのひとりは? 三つって、それって、もしかして……?」
「はい、拳さんも、喧嘩無敗の生徒会長だったって、伝説のひとりに数えられてます」
「無敗……の? 自称じゃなくて?」
沙羅が未だに魔桜堂の奥で伸びている、拳さんに視線を向けて呟く。信じてもらえてはいないようだ。
「なになに? 今、高校でわたしたちのこと、そんなふうに言われてるの?」
しのぶが、知らなかったと言いながら驚いている。
「はい、伝説の仕上げをしたのは、七人目のマリ姉だったらしいですけど」
「えへへっ」
控えめに小さな舌を出して笑うマリ。照れているのだろう。自分の髪を指で
「ちょっと、さくらちゃん? マリさんの通う大学って、すぐそこのって言ったわよね? それって、この国で一番って言われてるところよね? それも、成績トップって、えぇぇっ、マリさん、凄い……」
「えへへっ、そぉ?」
「そうですよ。わたしたちの高校初の快挙だって、担任が自慢してましたよ。それが、こんなに小さくてかわいいマリさんのことだったなんて……」
「そこまで言われると、なんだか恥ずかしいぃ……」
そう言って、今度は耳まで紅くして、さくらの陰に隠れてしまった。
「さくらちゃぁん、どおしよぉ」
さくらの背後で、さくらを上目遣いに見つめるマリ。
「どおしよぉ……って言われても。マリ姉はお姉さんなんですから、隠れてないで出てきてください」
さくらの後ろから、無理やり引っ張り出された格好のマリが唸る。
「あうぅ……」
「マリさん、ごめんなさい。わたしが大騒ぎしたせいで……」
そんなマリを見て、沙羅が恐縮している。
そこを取りなしたのがしのぶだった。
「いいの、いいの。沙羅ちゃんは気にしなくて。マリちゃんは、これでもましになってきたんだけどね。元々、極度の人見知りだし、男性恐怖症気味だし。商店街のお父さんたちとでさえ、まだまだのところがあるからねぇ」
「マリさん?」
「う、うん。ごめんねぇ、沙羅ちゃん。小さい頃に巻き込まれた事件がトラウマになっててぇ、わたしもね、克服したいとは思ってるんだけどぉ。でも、まだダメでぇ……」
「それだと、わたしを魔桜堂に案内してくださったときは、かなり無理をしてたんじゃないですか?」
「案内って? マリちゃんが案内してきたの? 魔法使いを信じますか? ……って?」
しのぶは、信じられないと言いながら、少し前に流行っていた、魔法使いものの主人公だった、女の子の真似をして見せた。
「わきゃぁ、恥ずかしいぃ。しのぶさぁん……やめてよぉ」
マリがさらに、顔を紅くして下を向いてしまう。そして、呟く。
「だってぇ、一度はやってみたかったんだもん。そしたら、そこに、魔桜堂が見えてない沙羅ちゃんが、お客さんとして来てぇ。さくらちゃんも、わたしが案内してもいいって言ってくれたからぁ……」
「あぁ、もうっ、わかったわかった。わたしもそれ、やってみたかっただけなのよ」
マリだけではなく、しのぶまでも、この魔桜堂への案内役をやってみたかったとは、さくらは今まで考えたこともなかったのだ。
「マリ姉たちも、ここが開いている時には、お友だちとか連れて来ていいですよ。あれは一度だけ、魔桜堂に入る鍵みたいなものなので、魔法を信じていただけてないと、出たらまた見えなくなりますし、記憶にも残りませんから」
さくらが、笑いながらマリたちに向かって言う。
「……ねぇ、さくらちゃん? さっきから、あなたたちが言っている、魔法とか魔法使いとかって、どういうことなの? わたしが突然、このお店が見えるようになったのも、魔法のせいなの? 案内してくれた、マリさんが魔法使いってこと?」
矢継ぎ早に質問攻めを始めた沙羅に、マリが丁寧に答えている。
「あのねぇ、沙羅ちゃんが探してた、
「志乃さんに代わって……? それは、今はさくらちゃんが魔法使いってことですか?」
「そぉだよぉ」
「そんな……、魔法使いとか魔法の道具だとかって、誰にでも簡単に話していいことなんですか?」
「沙羅ちゃんだから話したんだよぉ。誰でもいいって訳じゃないよぉ……」
「でも、わたし、まだ魔法のこと……、信じてないと思いますよ。そんなわたしでも?」
沙羅が申し訳なさそうに返事をした。
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