第2章 まだ許してはくれないの?
第9話 これもいつものことなので……
暖かく、懐かしい光に包まれたような気がした。
『魔法使いを信じますかぁ……?』
マリが使った、その言葉のあと、
ほんの数秒のことだったはずなのに、長い時間、それに触れていたような、心地よい感覚。
沙羅が我に帰ると、目の前に広がっていた商店街に、変化が起きていた。古いながらも趣のある店が、そこに加わっている。
マリに手を引かれるようにして、沙羅が
「あら、あなたが、
魔桜堂の中から、さくらたちを見つけて、しのぶが声をかけてきた。
「しのぶさぁん、ひとりなのぉ?」
魔桜堂に、さっき引きずりこまれたはずの、拳の姿が見えなかったが、マリは気にすることなく、しのぶに問いかける。
しのぶが、なぜか、機嫌よく見えてしまったさくらは、一抹の不安を感じながらも、沙羅の紹介を始めた。
「こちらは沙羅さん。
さくらの紹介を聞いていたしのぶが、拳の名前が出たところで、視線を魔桜堂の奥へと移したように思えた。マリも同じことを感じたようだ。
さくらとマリが揃って、しのぶの視線が動いた先を探し始めた。
しのぶは、ふたりの行動を気にする様子もなく、沙羅と話し始めた。
「沙羅ちゃんていうのね。よろしくね」
「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。しのぶさん」
沙羅が思わず見とれてしまうほど、しのぶが優しい笑みを浮かべていた。その笑顔のままさくらたちに声をかける。しかし、その視線は、店の奥へと注がれている。
「拳さんならまだそこにいるわよぉ、そこに」
「そこに……って、しのぶさん? 拳さんがたいへんなことになってますよぉ。魔桜堂の中が本当に、殺人事件の現場みたいです」
しのぶの視線を追って、店の奥の様子を窺ってきたマリの言葉のとおり、そこには、だらしなく横たわる拳の姿があった。その
「マ、マリ
「えへへっ、そぉでしょぉ? でも、その表現しか当てはまらないかもぉ」
さくらとマリのやりとりを、しのぶは軽く聞き流して、沙羅に言った。
「拳さんのことなら、気にしなくていいからね。それより沙羅ちゃんは、さくらちゃんと同じ高校なのね。その制服は懐かしいわ。わたしたちの後輩になるんだね。一年生?」
「はい、でも、今まで同じ高校に通ってたはずなのに、さくらちゃんのこと、まったく知らなくて……。あれ? しのぶさんたち、先輩なんですか? しのぶさん……たち?」
沙羅の表情には、疑問が浮かび上がっている。頭上には疑問符も浮かんでいることだろう。
しのぶたちが先輩。他には誰のことを言っているのか、難しい顔で考え込む沙羅。しのぶはその姿を見ても笑っている。
「わたしも、そぉなのぉ。拳さんもだよぉ」
突然、飛び込んできた、かわいらしい声。
「えぇぇっ? マリさんのことなんですか? こんなにかわいいのに? 小さいのに?」
「うん、よく言われるよぉ。さくらちゃんより年上には見えないんだってぇ」
そこには、照れ笑いを浮かべたマリがいる。
「だから、さくらちゃんは、マリさんのことをマリ姉って呼んでたのね。うわぁ、ごめんなさいマリさん。わたしと同じか、もう少し下かと思ってました」
とうとう、しのぶが堪えきれなくなって笑いだした。
「いやぁ、沙羅ちゃんのその、あたりまえすぎる反応っていいわぁ。ほら、マリちゃんももう少し、大人っぽくならないと。そのうち、さくらちゃんの妹って言われだすわよ」
「気にしてないからいいんですよぉ。わたしはいつでもさくらちゃんのお姉さんなんですからぁ」
かわいらしく、頬を膨らませて反論するマリと、おろおろして落ち着かない沙羅、いつまでも大笑いしているしのぶを、それぞれさくらが交互に見て、三人を助けるように間に入っていった。
「しのぶさんも、マリ姉で遊ばないでくださいって言っているのに……。沙羅さんが、取り残されちゃってますよ。もぉ、マリ姉もいつまでも膨れてないでくださいね、お姉さんなんでしょ?」
いつもと変わらないやりとりが、今日も繰り返されている。
「膨れてないよぉ。さくらちゃんのいじわる」
マリからの反撃。
「いじわる……って」
「だいじょうぶ? さくらちゃん?」
魔桜堂のお客さんだったはずの沙羅が、いちばん気を使ってくれている。
「はい、まぁ、これもいつものことなので……」
さくらがため息まじりに答えた。
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