第五話
書籍化が決まってからは、怒涛の日々だった。
書き上げた内容の練り直しや修正を繰り返し、やっとの思いで一冊の形となって出来上がった。だが、書籍化したはいいものの、売れ行きは芳しくなかった。発売開始一週間は飛ぶように売れたが、その後は波が引いたように売れなくなってしまったのだ。
おそらく、瑛にも読まれていないだろう。
そう思うと自分が情けない。このままでは、いつまで経っても彼女に会えない。頭ではわかっているのに、焦れば焦るほど筆は進まなくなっていく。
そんな僕を見かねた担当の編集者が、ある日新しい提案をしてくれた。それは、趣向を変えて恋愛小説に挑戦してみるというものだった。
「え、僕が恋愛小説を?」
「はい。神大寺先生の人の心に訴えかけるような緻密な心情描写なら、間違いなく恋愛小説にはまると思うんですよ」
「でも……」
「実際に読者アンケートでも、恋愛小説を読んでみたいという声も上がってますし」
読者アンケートとは、今回の書籍化された僕の作品について、簡単な感想をネットで募ったものだ。
そのアンケートを担当者がまとめてくれた。綺麗にファイリングされているものを渡されるが、結果を見るのが怖くて手が震える。担当者が苦笑を浮かべながら、代わりに読み上げてくれた。
「『ファンタジーの世界観が好き』、『恋愛のリアルな心情描写が上手い』、『伏線をもっと散りばめてもよかったのではないか』、『登場人物が少し多い気がする』、『漫画のように情景が思い浮かびやすい』、『ラブストーリーとかも書いてみたら面白そう』とかですね。まだあと五十件ほど感想はいただいてますが」
売れてない割には、良い印象の感想が多いように感じた。少しほっとしつつも、厳しめの指摘も含められていたので、まだまだ改善点も多そうだった。だけど、これがリアルな読者の声だ。
ちょっと恋愛ものも書いてみようかなと言う気になってくる。
「あの。……試しに友人の恋愛体験とかを元に書いて……みます」
「本当ですか!? ありがとうございます! じゃあ、プロットができたら連絡してください」
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