138.ベロが言うことを聞かないの

 ご飯を食べるために手を洗う。一緒に入ってきたベロの足は、パパが魔法で綺麗にしてくれた。用意されたご飯の前で、パパのお膝に乗る。ベロの分は用意してあった。いつもはお座りするベロが、今日はそわそわしてる。


「ベロ、座って」


 座らないとご飯が食べられないよ。いいよって言ってあげられない。困った僕が声を掛けても、テーブルの上を覗き込もうとする。僕とパパのご飯が欲しいのかな。小さい体で必死に鼻を鳴らす。


「どうしたんだろ、ベロ。お座りして」


 手で座るように示しても、ベロは言うことを聞かなかった。それが悔しくて、僕は足を動かす。


「もうっ! ベロ!!」


 怒った僕の声にびっくりしたのか、ベロはぴたりと動きを止めた。ぺたんと耳が垂れて、しょんぼりする。でもお座りしないし、自分のご飯じゃなくてテーブルを見ていた。


 口を出さなかったパパが、ここで僕の頭を撫でる。いつもより少し乱暴な感じで左右に揺られた。


「カリス、ベロは何かを知らせようとしたのかも知れないぞ」


「そうなの?」


 ベロに尋ねると、わんっ! と勢いよく鳴いて尻尾が大きく揺れる。凄いな、パパはベロのことも分かるんだね。僕ももっとベロを分かってあげなくちゃ!


「大きい声出してごめんね」


 くーんと鼻を鳴らしたベロのために、僕はパパのお膝から降りた。パパが僕だけ椅子に座らせ、ベロをテーブルに届く高さに持ち上げる。くんくんとお料理の匂いを嗅いで、スープで唸った。


 う゛ーっ! 牙を剥いて怒ってるみたいな顔になる。このスープが嫌いなのかな? 僕が好きなお芋の白いスープみたいだけど。すり潰したお芋でとろっとしたスープに、パパがスプーンを差した。かき混ぜてスプーンを取り出す。


「これは……作り直してもらおう」


 スプーンの銀色の表面が青くなってる。パパはこのまま食べてはダメだと言った。分かんないけど、パパが嫌ならスープなくていいよ。


「僕、このスープ我慢できる」


「偉いな。お昼か夜に同じスープを出してもらおう」


「うん」


 お昼は文字のお勉強してたらすぐだし、お手紙書き終わると夜だ。お芋は美味しいけど、まだ平気。頼んだら同じものを作ってもらえると、今の僕は知っている。昔と違って、与えられるだけじゃないの。欲しいと言ったら、パパも皆も用意したり手伝ってくれるから。いい子でいるために、我慢も出来る。


「ベロ、ご飯食べていいよ。ありがと」


 頭を撫でた僕に擦り寄った後、ベロは自分のご飯のお肉を食べ始めた。いつも最初にお肉食べて、牛乳飲んでパンだよね。順番が同じなのは、好きな物から食べてるのかな。


 僕はサラダを食べて、次は焼いたお魚。それからパンにハムとチーズを挟んだやつ。温かいパンを両手で掴んで、大きく口を開けて齧るの。甘くてしょっぱいタレが美味しかった。


 食べなかったスープは冷めちゃって、色が白から青になった。さっきのスプーンの色と同じだ。珍しくて覗こうとしたけど、先に片付けられちゃった。

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