95.今度は僕がパパを助ける番

 怖い人達は光の向こう側にいる。だから姿は直接見えないけど、影の形で分かった。背中に大きな白い翼があるの。パパが持ってるのと同じだけど、白い翼は透き通ってるみたいだった。


 足に付けられた輪がピリピリと痛い。石の床は冷たくて、パパが近くにいないのが怖かった。蹲った僕は胸の近くを掴む。ここにはパパと繋がる印がある。心がある胸の真ん中がズキズキした。皺になるほど服を掴んだ僕の手に、何か丸い物が触れた。


 これ、お守りだ。マルバスが首に掛けて、アガレスやパパが魔力を入れてた。きっと僕とパパを繋いでくれるはず。強く握って、透明の球にお願いした。


 ――パパに会わせて!


 胸が痛くて、苦しくて、寂しい。パパがいない僕は弱虫で、ずっと泣いてしまう。丸まった僕の耳にパパの声が聞こえた。僕を呼んでる? どこにいるの、パパ。


「パパっ、パパぁ!」


 突然身を起こした僕に、翼のある人達が騒いだけど関係ない。僕が聞きたいのはパパの声で、僕が欲しいのはパパの手だから。見回したけど、パパは見えなくて。でも僕の手は自然と上に伸びた。


 パパ、僕はここだよ。お迎えに来て! 指先に何かが触れる。暖かくて気持ちよくて、嬉しくなった。パパだ!


「パパ、僕はここだよ」


「まさか? あの男が来るのか!」


「すぐにその子を殺せ!」


 僕がパパを呼んでいることに騒いだ人が近づく。その手に銀色の長い棒があった。あれは訓練の時にアモンが持ってたやつだ。僕を叩くの?


「パパっ! 助けて! 怖いよ」


 叩かれる! 背を丸めて身を守るより、必死で手を伸ばし続けた。触れた指先の温もりに包まれる。パパが僕を抱き締めていた。大好きな温もりが嬉しくて、僕もパパに抱き着く。背中に回した手で、パパを掴んだ。離れたくないの。


「バエル!?」


「殺せ!!」


 騒ぐ声の鋭い響きが攻撃みたいで、僕はびくりと身を竦ませた。あの人達、何だろう。怖い。パパと僕を叩く気なの? 涙が溢れて、息が変になる。鼻を啜りながら涙を袖で拭いた。


「お前らが我が息子に手を出したのか」


 唸るようなパパの声は怒っていた。でも僕に対してじゃないから、首に手を回してしがみ付く。石の床に倒れ込んだパパは座り直したけど、いつもより体が冷たかった。顔も青い色をしてる。具合が悪いの? 心配でパパの頬に擦り寄る。


 立ち上がらないのは動けないから? どうしよう、僕が呼んだからいけないんだ。泣きそうになった僕の頭を、パパの大きな手が撫でた。


「心配しなくていい。アレも一緒だ」


 アレ? 誰のことだろう。


「おや、天使が揃ってお出ましとは。丁寧に歓待して差し上げないといけませんね」


 アガレスの声だった。にやりと笑うアガレスは、天使と呼ばれた人達と同じ銀の棒を持ってる。戦うのかな。


「カリス様、陛下をお願いしますね」


「うん!」


 パパは僕を助けに来てくれた。だから今度は僕がパパを助ける番だよ! 大きく頷いた僕に微笑むアガレスは、そのまま天使の人と向き合った。


「貴様っ!」


「アガレスまで? 計画と違うっ!」


 叫んだ人達へ、アガレスは一歩踏み出した。


「悪魔の契約を無理やり破棄するなんて暴挙、それなりの報復を覚悟してのことでしょう? 何を驚いているのですか」

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