邂逅と昔話
「テルお姉さんだー! お久しぶりだねー!」
「おかえりー! 帰ってきてたのね! ティマーリエ君も久しぶりね!」
「あ、うん。お久しぶり、、、」
コーヒーハウスでの一連の事件の後、思いがけない形で再会した般代さんとテルさん――テル・アステマ天級術師。この二人が顔なじみだって言うのにも驚いたけど、それよりも――
『テルお姉さん! 私だよー』
『ん? テルお姉さ……まさか、トクちゃん?!』
このやりとりだけですべてを察してしまうほどの仲の良さって一体……。
それに、術師の無礼した分はきっちり当人が完済させるようにするから、と言って連れてきた他の術師に引き渡したけど。
「でねでね! 日本に行ったときのお話なんだけど――」
「ちょ、ちょっと般代さん、待ってくれる?」
なんとか口を挟み込むことができて、二人はきょとんとして僕を見た。
「ん? どしたの?」
「おなかすいちゃったの? 何か作る?」
「いや、テルさんがご飯作ると大変なことになっちゃうから……じゃなくて! 何でテルさんまで僕の家に来てるの?!」
さりげなく悪口言われた!? とわめくテルさんは置いておいて、いやまあ、父さんもテルさんも、同じ天級だし、父さんにはバレてないけど、父さんのことが好きだって理由でしょっちゅう家には上がってて、それなりの交流はあるけど。
だからって任務の途中でサボってまで来るような人だったっけこの人?
「えっと、いいにくいんだけど。仕事抜け出して、大丈夫なの?」
その質問に訳がわからない、という顔を一瞬した後「あーあれ?」となっとくしたようにうなずいた。
「わたし、ちょうど仕事が終わりそうなタイミングで言われたからさ? だったらそのままお仕事終わらせちゃおーって思って他の地級のひとたちにまかせてきちゃった」
トクちゃんとも話したかったしねー、と笑う姿は普通のどこにでもいる女の人みたいだった。
「ところでトクちゃん、帰ってきたてことは――」
「あー、テルお姉さん? トクちゃんは公の前ではやめてほしいかなー? ここでならまだいいけど。般代、もしくは葉那って読んでほしい」
「ん、わかった。――葉那ちゃん、始めるんだね? 転覆計画」
「!?」
「うん、始めるよ」
いきなりのことで一瞬頭が固まったが、どうやら、というべきか、やっぱりテルさんもこの計画に噛んでいるらしい。
「……そっか。やっと、始めるんだね」
「——うん、待たせちゃって、ごめんね」
「いいの、この時をずっと、待ってたんだから。あたしも、ナタージャさんも、そして――協力してくれるみんなも」
……協力して、くれる? この三人だけじゃないってこと?
頭の中が分からないことでいっぱいいっぱいになって、僕は思考を放棄しようとした。
「そっか……それは、うれしいな。あ、戻ってきたといえば、テルお姉さん。なんかティム君の昔話とかない?」
「んえ?!?!」
「ん-そうだね」
「ちょっと待って?! なんで急にそんな話になるの!」
「だって私、ティム君の昔あんまり知らないし」
だからって急にそんなの振る? しかも本人の前で! その上僕を小さい頃——それも僕すら記憶の無いくらいに小さなころから知ってる人に聞くの?!
「ん-、あ、じゃあきっと葉那ちゃんが嫉妬しちゃいそうなお話あるけど、聞く?」
「おー、きくきく!」
あー完全無視ですかそうですか……。
だけど、般代さんが嫉妬しそうなこと? え、 僕テルさんになにかしたかな?
「これはあたしが地級になったときの話だから、8年前かな? ナタージャさんと、そのお嫁さん、あとあたしの3人で呑んでたの。で、その時あたしもう凄い酔ってて何話したかとかあんま覚えてないんだけど、一個だけすんごいはっきり覚えてることがあるの」
「あーはいやめてやめて! 思い出してきたから!」
テルさんが話していくと同時に、自分の中に封じ込めていた
一気に蘇って、その話を最後まで般代さんに聞かせたくなかった。
けど、そんな僕の心境を話がヒートアップした二人が知るはずもなく。
「それで?! どうしたのどうしたの!?」
「その時机に突っ伏してぐてーってしてたんだけど、なんか頭をポンポンってされてさ。ナタージャさんかなーってちょっと期待しながら顔を上げたんだけど「あー何の話でしたっけー!? テルさんそろそろご飯にしたいんで帰ってもらっt
「「ティム君うるさい」」
「はい……」
男一人に女性が二人。父さんのように図太い神経を持ってない僕は反論できないから、大人しく口を閉ざす。
「で⁉ で、どうなったの?!」
「それでね! ティム君に頭ポンポンされた後にね、『ママ、まだ寝ないの? 大丈夫?』って聞かれて、うんって返した後に、『じゃあ、おやすみ』ってほっぺにちゅってもらっちゃった!」
「ほーん、へー、なるほどねぇ」
にこやかな表情で僕の方を向く般代さん、けどその目は全く笑ってない……。
「ティムくーん? 私って人がいながらどういう事かなー?」
「待って般代さん⁉ それは別にいいでしょ?! 僕もまだ君のことを知らなかったし、テルさんを母さんと間違えてしちゃっただけだからさ!?」
僕の反論に、彼女はむぅ、と頬を膨らませながら、「ま、いっか」と呟いて、手を払った。
「この件はじゃあ水に流すとして、テルさん、食べていくでしょ? 夕ご飯」
「ちょっと急に何言ってるの! 僕らそんな多く食材買ってないよ!」
「え、ダメかな――もうこんなに話しちゃった後だと、お惣菜も食材も残ってないと思うんだけど……」
テルさんの言い分に、僕は答えを失う。確かにもうじき月が出てくる。
——考えていたよりも、夕飯の量を増やさないといけないな。
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