座学と術式 ~後編~

「い、今見てもらった通り」

 オシュタル先生はさっき書いた、丸の中にバツの書かれた他象型の術式と、丸の中に十字を書いた自象型の術式をもう一度指し示す。

「術式は、大別すると、この二つです。でも、この二つも、それぞれ二種類――つまり合計、四種類に、分類できます」

 黒板に、もう一個ずつ他象型と自象型の二種類を書き足した。

「まず、他象型の、二、二種類。ひとつは、相手を弱体化させる、『弱化型』です」

 さっきの他象型の術式の左側から、直線。その途中に、稲妻の様な模様をかき、また直線。そして、行き止まりのように垂直に線を引く。

「こ、これが『他象弱化型』、と呼ばれる術式です。か、簡単に言えば、相手を弱らせることに特化した、術式ですね」

 弱らせる……毒のような状態にもさせれるってことかな。

「そうね、それ以外にも特定条件の中で発揮されるものもあるわ」

 僕の考えを読んだのか、般代さんが囁きかけてきた。……ほんとに油断ならない。

「た、他象型の、もうひとつは、直接的な、攻撃を与える、直攻型、です。術式の形は……」

 もう一個の術式に、今度は直接稲妻のような刻印を書く先生。ただし、方向は逆−−つまり、持ち手の方に向けて描かれる。そして、その先に菱形を描く。

「こ、これが、直攻型の術式です。主に、相手に対して、物理的な攻撃を加えていくものです」

 羽ペンがカリカリとは走る音が、教室中から聞こえてきた。

「先生、質問です」

「ヒャ!? あ、は、はい」

 びくぅ、と跳ねた先生に教室中の空気が少し弛緩した。

「えーっと、その直攻型の攻撃力とか、弱化型の弱らせ具合とかって、私たちの方で調整できるんですか?」

「あ、い、いい質問ですね。えっと、い、一応、僕らの方で出力の調整はできます。でも、それも結構大雑把にしかできないので、細やかなことは、できない、と考えてください」

「たとえば、徐々に強めていくような弱体化を仕掛けたりなんかはできないってことよ」

 また補足説明をしてくれる彼女に、一応僕は手で感謝を表す。

「ほ、ほかに質問は、、、?」

 先生の言葉に反応はなく、説明は続けられる。

「じゃ、じゃあ、次。

 次は『自象型』の分類です。じ、自象型は『強身型』と『阻防型』の、ふ、ふたつになります」

 オシュタル先生は、丸に十字が書かれた術式に、再び粉筆を走らせる。

「こ、この二つも、こんな感じに」

 丸と十字、その間から切っ先に向かってギザギザに線を引いた。

 一回、二回、三回、と折り曲がったところで線を止める。同じ作業を、もう一度逆にして描いた。

「こ、これが、強身型の術式です。術師本人の能力を底上げします」

 その言葉で思い出した。そういえばこれ、父さんの刀にも彫られてたっけ。

 苦々しい顔をすると、横からため息が聞こえた。

 ――あー、そういえば彼女も煮え湯を飲まされたんだっけ。

「さ、最後の阻防型は、敵の攻撃を、防いだり、弱体化します」

 これまた柄の方に線を引いていく。

 ただ、なんか言葉で説明できないような形だ。

「こ、これで以上になります」

 その言葉と同時に就業の鐘が鳴った。

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