第69話 咲耶side

「絶対やましい内容だわ。あの声からして…」

わたしは木崎さんとの電話のあと、着替えの下着とパジャマを持って、浴室に向かった

そして今はお風呂に入り、湯船に浸かっている

今回の電話でわかったことがある

陰キャ属性からなのか。あるいは生来のものなのか

木崎さんはなにを考えているのか、なにを思っているのかが、よくわからない

でもやましいことなんかを隠したりはできない

必ずボロを出す

今回の電話の声でそれがわかるぐらいだから、表情なんかでは、特にそれが現れるだろう

「変な隠し事はできないな。あれなら絶対。言っといて良かったかもね。尚更できないだろうし」

木崎さんのそういうところがわかって、少し安心した

それにしても柊のヤツ……

「胸をチラチラ見せたノーブラ写真送ってるって。あの痴女!!」

バシャバシャ

わたしは湯船のお湯を顔にかけながら、そう言った

木崎さんのあの声からして、変なことには使ってない。それは間違いない

でも、もし使ってたら

「絶対許さないから!!この…」

わたしはハッとして、その先を言うのをやめた

『わたし、なに言おうとした!?ダメでしょ、それは!!』

その先は言っちゃダメだ

だってわたしには、その資格がないから……

でもなんだろう。そう思うと……

「なんか悲しい…」

そんなことを呟いてしまっていた

なんでそんなことを呟いてしまうんだろう

とりあえずこれも保留にしよう

それよりも気になるのはあの日の晩に来たっていう柊からのメッセ

あの日といえば、わたしが木崎さんの頬にキスした日

『できれば、次の休みにデートに誘って、その内容を見せてもらって、色々追及したいけど…』

次の休みは愛花の家に行くことになっている

目的は愛花に料理を教えてもらうため

とりあえずは隔週で、愛花に家で料理を教えてもらうことになった

愛花に用事ができたりしたら、変わるだろうけど、とりあえずそういうことになった

隔週になったのは、わたしが木崎さんをデートに誘いやすくするためだろう

『変な気遣いしなくていいのに…』

そう思いながらも、そんな愛花の気遣いが嬉しくて、わたしは笑みを浮かべた

「そういえば、愛花の家に行くのって初めてだな」

一年の頃から仲良くしてたのに、まだ行ったことなかったなんて…

『なんでなんだろう?そういえば、卑弥呼に弟がいるってことも知らなかったな。今まではなんとも思ってなかったけど…』

もしかしたら、わたしたちには壁みたいなのがあったのかもしれない

今考えれば、そんな壁いらないって思うような壁が…

お互いの趣味とか好きなことも知らなかったし、今思うと、そんな壁があったことがすごく悲しい

愛花はあの元カレの一件以来、やたらと子供扱いしてくるけど、その時よりは打ち解けてるような感じがする

今は子供扱いされても恥ずかしくない。むしろ嬉しく思うぐらいだ

卑弥呼にしてもそうだ

クールなところは変わらないけど、前よりは本音で話せてる気がする

前のわたしたちの友達関係は今思えば、すぐにも壊れそうな、そんな友達関係だった気がする

でも今はそんな友達関係じゃない。そう言いきれる

『もしなにかで壁ができても、それが壊せるような、そんな友達関係にしたい』

そう思った

そして木崎さんとの関係も

「今みたいな、あやふやな関係じゃない。ちゃんとした関係にしたいな」

わたしはどんな関係を望んでるんだろう?

木崎さんは、それを受け入れてくれるかな?



『………………』



あの時の言葉が頭に浮かんだ

また少しトーンが上がっている

でも何故か、今回も戸惑いはない

前ならこういう時、戸惑ってたのに……

『あの言葉に見合うような関係になれたらいいな…』

……なんか恥ずかしくなってきた

戸惑いはないけど、あの時の言葉でそんなことを思うと恥ずかしくなる

わたしは湯船から体を出すと、浴室を出た



バスタオルを体に巻くと、わたしは脱衣所に置いてある、あるものを手にした

それはスマホ

普段は部屋に置いていくのに、今日は何故か持ってきてしまっていた

『今は柊からのノーブラ写真を、変なことに使ってないだろうけれど……』

ずっとそのままという保証はない。全く

わたしは意を決して、自分の今の姿を写真に撮った

そして

『わたしのお風呂上がりの写真送ってあげる。変なことに使うなら、これ使って』

木崎さんのLINEに、そういう内容のメッセと写真を送った

「なにやってんの、わたしーーーー!!!!」

顔を真っ赤にして、今行った自分の行為に対して、そう言っていた

わたしはこれまでにない早さで、下着を着けて、パジャマに着替えると、一目散に自分の部屋に向かった



そして部屋に戻って、わたしはLINEを見た

既読にはなっている。でも返信はない

「返信しなさいよ!!バカーーー!!!」

そう叫んでいた



そして翌朝見ても、返信はなかった

『この大馬鹿中年男!!!』

わたしは木崎さんに、そうメッセを送った










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る