第11話 夏休み開始

 「明日から夏休みかぁ…」

 食事を終えて、泉がお風呂に入っている間に真実と皿洗いをしていた。


 「あ、俺合宿とかあるから明日からいないからな。」

 真実がさらっと言う。

 「えっ!」

 真実の顔を見る。

 「仕方ないだろ。部活だし。」

 真実は意味深に笑う。

 「邪魔者がいないうちに泉と上手くやれよ★」

 「!?…そこは手を出すなっていうだろ普通…。」

 真実は洗い物を終わらせ手を拭く。

 ぎゅっと頬をつねってくる。

 「俺はお前なら…悪くないと思うぜ。」

 「…。」





 真実はにこやかに透の肩を叩き合宿に行ってしまった。

 真実を送り出すと泉は言う。

 「しばらくの間2人だね」

 

 今日からしばらく2人きり…。

 嬉しいような怖いような…。


 「水野さんは…なんかするの?」  

 泉は困ったように笑う。

 「勉強かな…」

 

 なんとなく一緒に午前中リビングで課題をやって過ごす。

 「……」

 泉と一緒にいるとどうしてもこの前の事を意識してしまう。

 …最低だな…。

 彼女のことをこんな目でしか見れないなんて…。


 ふっと部屋の中が静かになったのに気づく。

 泉を見る。

 今朝は真実が家を出るのが早く、それにあわせて起床したため眠くなってしまっていたのだろう。

 うとうとしている。

 

 そんな泉の顔に見入ってしまう。

 肩にかかる髪と、耳…。

 柔らかそうな唇と…胸。


 …体が…熱くなる…。


 泉…かわいい…。

 自分が泉に手を伸ばそうとしていることに気づく。

 ハッとした。

 これじゃあ泉に手を出そうとしていたあの生徒と一緒だ。

 

 透は手を握り締めた。


 

 ★


 

 

 夕方外の暑さが落ち着くと二人で買い物に出る。

 一緒に夕飯を作り食べる。

 交代で風呂に入り眠る。 

 穏やかに過ぎていく日々。

 とにかくつつがなく。

 平常心で。

 

 一週間はあっという間に過ぎていった。

 

 寝る前に泉に話しかける。

 「明日は真実が帰ってくるな…。」

 「そうだね、あっという間だったね」

 泉はホッとしたように微笑む。

 「もう寝ようか」

 泉と部屋の前で別れた。

 自分の部屋に入りベッドに寝転ぶ。





 誰かに呼ばれたような気がして目を覚ます。

 なんだろう…。

 ぼんやりとしていると微かに声が聞こえた。

 泉の声が聞こえる。

 そっと泉の部屋の前に立つ。

 泉の部屋のドアを開けて中の様子を窺う。

 薄暗い部屋の中…ベッドで眠る泉。

 「んっ…」

 寝言だろうか?

 ドアを開け放ち部屋に入る。

 廊下の明かりが入ってきて寝ている泉の表情が伺える。

 

 「んんっ…いやっ…!」

 泉が泣きながらうなされていた。

 「!?」

 驚いてしまう。

 いつも笑顔の泉。

 そして今、目の前で涙をぼろぼろと流している泉。

 「イヤっ…離して…」

 

 ただ見ているなんて出来なかった。

 「水野さん!起きろ」

 泉の肩を揺さぶり起こす。

 「んっ…。」

 一瞬何が起きているのか分からなかったような泉。

 目を覚まし、透の姿を認識する。

 「あ…青海…君…」

 泉の瞳から涙が零れ落ちた。

 夢だと気づき安心したのか泣き出してしまった。


 「もう…大丈夫だから…」

 透は泉の背中を抱く。

 「青海君…ごめんっ…。わたしっ…」

 泉の背中を撫でる。

 「水野さん…大丈夫だから…。」

 「ごめん…時々思い出しちゃって…。あの時の事…」

 ああ…だからか…

 泣き続ける泉の肩は震えている。

 「大丈夫だよ。そばにいるから…」

 そっと抱きしめる。

 「青海君…」

 

 


 ★


 「ったくお前ら…」

 翌日帰ってきた真実に起こされる。

 どうやら泉と抱き合いながら眠ってしまったらしい。

 「んっ…真実おかえりって…ああっ!これは違うっ!」

 慌てて泉から離れる。

 「お前らもう付き合ったら?」

 真実が笑った。

 真っ赤になる泉は可愛いなと思った。

 

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