第34話 決戦、ルギウス戦

 当日、ルギウスが決闘を行う場所として指定した場所に行くと、そこには大勢の人だかりができていた。


「ふえー。すんごい人の数だね」

「何でもクラフト家が王都中に決闘の告知をして回ったらしいですね。リジル様に勝つ様を見せつけることで勇者一族の名誉を回復しようとしてるんじゃないかと」

「相手さん、リジルさんに負けるとは微塵も考えてなさそうッスね……」


 僕たちは集まった人たちからの注目を集めながら歩いていく。

 僕からするとルギウスと話すことと、魔王軍幹部であるクロの情報を得ることが目的なのだが……。


「なあ、お前どっちが勝つと思うよ?」

「そりゃあやっぱりリジルさんだろ! 大狩猟祭の時も圧倒的な大差で優勝したし、シリング王からブラックランクに認められた冒険者だぞ!」

「ふぅむ。しかし評価も落ちたとはいえ、あのルギウスも勇者であることに変わりはないからな。それに直接対決は初めてだろうし、大狩猟祭の雪辱に相当燃えていると聞くが……」


 周りの人たちは、かつて勇者一族を追い出された僕と現勇者であるルギウスとが直接戦ったらどうなるかという結果に関心を向けているようだ。


 ルアやナル、ドゥーベは人だかりの最前列に残り、僕だけが中央に向けて歩いていく。

 集まった観衆の中にはリラの姿もあり、こちらに向けて少しだけ手を挙げてくれた。


 そして、


「父上……」


 僕はルギウスと話す父上の姿を見つける。

 遠巻きに見ている父上と目があったが、それはほんの一瞬だった



「フフフ。よく逃げ出さずに来たな」


 観衆が作った輪の中心で、僕はルギウスと対峙する。


「野次馬どもからの評判を得ているからといっていい気になるなよ。所詮あいつらはこの俺が勝利するところの見届人に過ぎんのだからな」

「別に僕はいい気になっているわけじゃない。それよりもルギウス、一つ話しておきたいことがある」


 僕は両腕を組んで見下ろすように話しているルギウスに対して言った。

 もちろん、魔王軍幹部クロのことに関してだ。


「何だ、手加減でもしろとでも言うつもりか? 媚びるのが上手くなったようだが、俺にその気は無いぞ」

「違う。協力して欲しいことがあるんだ。この――」


 説明をするために懐から黒い石を取り出そうとしたところ、鞘から剣を抜き払ったルギウスに遮られる。


「ククク、俺はお前とおしゃべりしに来たわけではないぞリジル」

「くっ。……なら約束しろルギウス。僕がこの決闘に勝ったら話を聞くと」

「フーハッハッハ! 妄言もここまでいくと笑えるというものだ! この世界で最強の勇者紋を持つ俺に向かって勝利宣言とはなぁ!」


 ルギウスは僕の言葉を受けて高らかに笑っている。

 あまりにも挑発的な言動に業を煮やしたのか、ナルがルギウスを指差して何か言っていて、ルアがそれを必死で抑えつけているのが見える。


「いいだろう。もしもお前が決闘に勝ったら話でもなんでも聞いてやる。もっとも、決闘後にあるのはこの俺にひれ伏すお前の無様な姿だがなぁ!」


 言って、ルギウスは剣を体の前で構えた。


 僕は剣を抜く前に一度、自分の右手甲に目をやる。


===========

・命中率上昇(範囲中)

・スキルブレイク

・物質破壊

・索敵(範囲中)

・縮地

===========


 紋章の力を得てからルギウスと剣を合わせたことは無いが、勇者紋はあらゆる剣技の威力を高める上、魔法も使いこなせる紋章だ。


 けど僕だってモンスターと戦う中で色んなスキルを習得してきた。

 例え勇者紋を持つルギウスが相手でもスキルを駆使して渡り合うことができるはずだ。


 ――集中しろ。

 一瞬たりとも隙を見せることはできない。


 僕はそうして一つ大きな息を吐くと、剣を構えるルギウスに合わせてショートソードを抜き放つ。


 それ以降は言葉も無く、お互いに剣の先を目印にするかのように相手へと照準を合わせた。


 シン――、と。

 押しかけた観衆のざわつきも収まり、辺りは静寂に包まれていく。


 そして、始めに動いたのはルギウスだった。


 剣先を僅かに上げ、こちらに向けて駆け出してくる。


 ルギウスが初撃に選択したのは、剣技の中でも最速を誇るとされている上級剣技ソニック・ストリームだった。

 ルギウスの右手の紋章が輝き、スキルを使用して何かしらの効果も付与していることが窺える。


 僕は咄嗟に【スキルブレイク】と【物質破壊】スキルの使用を念じ、迎撃しようと試みた。

 のだが……。


 ――何だ?


 思考を挟む余裕があるくらいに、ルギウスの動きが遅く感じられる。


 ――何か策があるのか?


 そうに違いない。

 これでは王都を出て初めて戦ったモンスター、ジャイアントオークの素早さの半分にも満たないだろう。


 直前で動きを変えて魔法か別のスキルを使用してくると読んだ僕は、体の位置を半歩ずらしてルギウスの動きを注視する。


 ……。


 …………。


 しかし、僕の攻撃の間合いに入ってもルギウスは変わらず一直線に突進するのみだった。

 しかも僕が動く前の位置に向けてだ。


 仕方ない。

 何かカウンターを仕掛けてくる恐れもあるが、こちらから仕掛ける……!


 僕は剣の刃がついていない腹の部分をルギウスに向けると、そのまま横薙ぎに一閃を払う。


 致命傷を避けるために【命中率上昇】のスキルは使用していなかったため、ルギウスが取る何かしらの回避行動に合わせ、自分で剣撃を変えようと思った。

 が、僕のショートソードはそのままルギウスの横腹に吸い込まれていく。


 ――避けない?


 そこで初めてルギウスは僕の方へと視線を動かし、一瞬、驚愕の表情を浮かべる。

 そして、


「グボァッ!」


 僕の峰打ちを受けたルギウスは吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていった。


 ――え?


 僕は自分の握る剣とルギウスを交互に見やる。

 ルギウスは何とかといった感じで立ち上がるが、膝はガクガクと震えて剣を持つのがやっとの様子だ。


「く、く……、くそがぁ……。こうなったら……!」


 ルギウスが僕の足元に向けた手から何か魔力が放たれるのを感じたが、やはり遅かった。

 僕が念の為【縮地】のスキルを使って移動すると、それから少し遅れて元いた場所に爆発が起こる。


「な、な……」


 ルギウスは移動した僕を見つけると、またも信じられないものを見るような目で見てきた。

 今のは何かルギウスが頼みの綱にしていた攻撃だったのだろうか?


 僕は再度【縮地】を使用し、ルギウスの喉元に剣の切っ先を突き付ける。


 そして、ルギウスは手に持っていた剣を落とすと、膝から地面に崩れ落ちてしまった。

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