第22話 宣戦布告
王都に到着したのは夕方になってからだった。
以前ルアと一緒に徒歩で進んだ時は王都からファーリス村まで数日かかったが、今回はナルに乗せてもらったおかげでその日の内に到着することができた。
ただ、フェンリル化して走ったせいか、当のナルはクタクタで獣耳を元気無く垂らしている。
「お腹すいたぁ……」
とのことなので、僕たちは宿を取る前に食事をするため王都の酒場へと向かうことにする。
王都の酒場は大狩猟祭に集まった冒険者たちが多いせいか、かなりの賑わいを見せていた。
「お、おい。あれ、リジル・クラフトじゃないか?」
「ああ、あの欠落紋を発現させて勇者一族を追放された落ちこぼれって噂の……」
「馬鹿、お前見てないのか。あの功績と昇級の早さだ。恐らく相当な強さだぞ」
僕たちが酒場に入ると周りの冒険者たちがざわつき始める。
欠落紋を持っていて追放されたことを罵られるのも覚悟していたが、悪意ある声は無いようで正直安心した。
「良かった。ドゥーベさんみたくリジル様に絡んでくる人はいないようですね」
「うぐ……。ルアさん、その話は勘弁して欲しいッス……」
僕たちは席に着いて、注文したそれぞれの品が出てくるのを待った。
そして、食事が出されると真っ先にナルがかぶりつく。
「おいしーいっ! 王都の料理ってこんななんだね!」
ナルは出てきた料理に感激したのか尻尾を右に左にと動かしていた。
微笑ましくなるその様を眺めながら、僕たちも料理に手をつけていく。
「明日リジルが優勝したらまた来よーね!」
「ああ。優勝できるよう頑張るよ」
僕がナルに答えたその時、
「フッ、優勝だと? 何を寝ぼけたことを抜かしているんだお前は」
酒場の入口から聞き覚えのある声が飛んでくる。
そこには僕の弟――ルギウスが立っていた。
「ふん、酒場にお前が現れたからと聞いて来てみれば。最速でゴールドランクに昇級したからって調子に乗りやがって」
ルギウスは僕の横に置いてあった剣に目を留めたのか、ヅカヅカと歩いて僕のところまでやってくる。
そして剣を乱暴に掴み取ると、馬鹿にしたような目を僕に向けてきた。
「ふっ、なんだこの細身で貧弱な黒い剣は。落ちこぼれにお似合いの出来損ないの剣だな」
「ルギウス、その剣に触るな。弟のお前でもその剣を馬鹿にするのは許さないぞ」
この剣はアンバスやファーリス村の人たちの想いが込められたものだ。
それを愚弄するのは許せることではなかった。
僕はルギウスから剣を取り返して続ける。
「それに僕は別に調子に乗ってるわけじゃないよ。ただ、今回の大狩猟祭は僕にとっても負けられない。それだけだ」
言い返されたのが気に喰わなかったのか、ルギウスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
「くっ。屋敷を追い出されて冒険者なんぞに身を落とした落ちこぼれが、いい気になるなよ……!」
「冒険者を馬鹿にするな、ルギウス。王都にいるお前にはわからないかもしれないが、冒険者は各地の問題を解決している人たちなんだ」
「そうッスよ! リジルさんも大勢の人を救ってきたッス! クラフト家はなんにもしてくれなかったじゃないッスか!」
ドゥーベが思わずといった感じで声を荒げると、酒場にいた他の冒険者たちもそれに続いた。
「勇者の坊っちゃんよ、黙って聞いてればいい気になりやがって! 勇者紋に選ばれたからっていい気になってるのはそっちだろ!」
「そうだそうだ! リジルさんはクラフト家が見捨てたファーリス村を救ったって聞いたぞ! お前らよりよっぽど人の助けになってるじゃねえか」
「あまり俺たち冒険者をナメるんじゃねえぞ!」
酒場のあちらこちらからドゥーベに賛同する声があがり、ルギウスは後退りする。
「くそ、この雑魚どもが……! 最強の紋章の持つのは俺なんだ! お前らがこの俺に敵うと思うなよ!」
「……ルギウス、強さを求めるのは悪いことじゃない。僕だってそうだった。……でも僕は王都を出て、冒険者として色んな人たちと関わることで初めて分かったよ。大切なのは強さをどう使うかってことだ」
「この俺に説教する気かっ!?」
憤慨したルギウスに向けて次に声をかけたのはルアだった。
「ルギウス様。お言葉ですが、リジル様はあなたたちのせいでとても辛い思いをされたのです。そして紋章の力に気付いてからも、目の前の人を救うという姿勢を決して変えることはありませんでした。私は、それがルギウス様には無いリジル様の強さだと思いますよ」
「この……、侍女の分際で……!」
「私はもうクラフト家の侍女ではありません。リジル様にお仕えする一人の人間です」
「ルアお姉ちゃんの言う通り! 偉そーなお前にリジルが負けるもんか!」
ナルが叫ぶと、再び酒場からルギウスに向けた怒号が飛んだ。
「く、雑魚どもめ……。いいか、これだけは言っておく! 明日の大狩猟祭で優勝するのはこの俺だ! ここにいるお前ら全員、跪かせてやるからな!」
「ルギウス、僕だって負けられない。明日、優勝するのは僕だ」
ルギウスはその後も捨て台詞を何度か吐いて酒場を去っていった。
「皆さん、お騒がせしました。明日はお互い頑張りましょう」
そう言って僕が頭を下げると、酒場の冒険者たちから喝采が起こる。
「おお! 気に入った! 俺も明日は負けてらんねぇな!」
「いやあ、スカッとしたぜ!」
「明日は俺が勝ちますよ、リジルさん!」
その後、酒場は大盛り上がりだった。
僕はその賑やかな光景にどこか一体感のようなものを感じて目を細める。
それぞれの思いが巡る大狩猟祭。
それは、いよいよ明日に迫っていた――。
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