第10話 呪いの解呪方法を求めてファーリス村へ
「で、だ。リジルよ。水を差すわけじゃねえが、お前の境遇がすぐに変わるわけじゃねえだろうから、それは覚えておけよ。いくら紋章がとんでもない最強性能でしたって言っても、それを周りが信じてはくれねえだろう。特にお前の実力を見てない奴らはな」
確かに賢者アンバスの言う通りだ。
欠落紋が実は強かったみたいです、と言って王都に戻っても信じてはもらえないだろう。
妄言を吐くなと笑われるのがオチだ。
「分かっています。僕も冒険者ですから。これからの行いが大切だと思っています」
「クックック、いいねぇ」
紋章の謎は教えてもらうことができた。
あとは……、
「あの、アンバスさん。もう一つ聞きたいことが」
「ん? ああ、村長のブライが伝書鳩で伝えてきてたな。意味不明な石があるとか?」
「はい。これなんですが――」
ルアの【収納魔法】から取り出した黒い石を受け取り、アンバスに見せたその時だった。
――ドサッ。
「ドゥーベさん!?」
背後で聞こえたその音に振り返るとドゥーベが倒れていた。
***
ひとまず小屋のベッドに寝かせたドゥーベは、苦しげな表情を浮かべていた。
賢者アンバスがドゥーベの体に手をかざし、突然倒れてしまった原因を調べている。
「アンバスさん。ドゥーベさんは一体……」
「呪いの仕業だな、これは」
「呪い?」
ドゥーベの体を調べ終わったアンバスは、神妙な面持ちで頷く。
「対象の人間に取り憑いて、痛みで体を蝕んでいくんだ。普通なら兆候が現れてから長い時間がかかるもんだが……、どういうわけか呪いの進行が早い。このままだと一日も持たずあの世行きだな」
「そんな……、どうしたら」
「解呪のスキルが必要だ。ただ、オレも解呪については専門外でな。高位のヒーラーの紋章でも持った人間がいればいいが……」
そう言ってアンバスは僕とルア、ナルを順番に見回す。
が、残念ながら僕たちの中にヒーラー系統の紋章を持つ者はいない。
「そっちの獣人のおチビちゃんは変身系統の紋章、侍女の嬢ちゃんは珍しい紋章だがヒーラーじゃねえな。リジルに至ってはそもそも攻撃用の紋章だ」
「なら、ファーリス村に行ってヒーラーを探すしか……」
「それしかねえだろうな。ただ、一番近いファーリス村でもそれなりの距離がある。それまでこのハゲの体力が持てばいいが」
確かに、アンバスの家に来るまでも半日はかかってしまった。
でも、ドゥーベの命がかかってるんだ。
今はそれ以外に方法が無い以上、村へ下るしかない。
「すまないッス、みんな……。何でこうなったか……」
「原因究明は後だ。とりあえず村へ急がねぇとな」
アンバスがそう言って、
「ふっふっふ。しょうがないな―。それじゃあナルの力でどうにかしてあげよう」
「「「え?」」」
その場にいた全員がナルの方を向く。
どうにか、できるのか?
ナルは尻尾を振りながら、横たわっているドゥーベの元へと歩み寄る
そして――、
「痛いの痛いの、とんでけー!」
全員がしばし沈黙した。
「……あだだだ! じょーだんじょーだん!」
「このおチビ、今はそれどこじゃねえんだよ!」
アンバスが側頭部を拳で挟み込み、ナルは悲鳴を上げている。
「ナルちゃん、今はふざけてる場合じゃあ……」
「分かった! マジメに、マジメにやるから!」
「お? 何か方法があるのか?」
アンバスが拘束を解くと、ナルは一息ついてから言った。
「ふっふっふ。村までなんてあっという間だよ。ナルがフェンリルの姿になればね!」
そうか、ナルがフェンリルに変身すれば村に行くまでの時間が大幅に短縮できる。
「な、何で来る時に使ってくれなかったッスか……」
「けっこー疲れるんだよ、フェンリルの姿で走るの」
「フェンリルだと? このおチビ、フェンリルに化けられるってのか?」
「話はあとあと! おいツルツル、少し揺れるけど平気か?」
「ツ、ツルツルって……。でもこの際ッス。お願いするッス」
どこか緊張感の無いナルだったが、事の重大さは理解してくれているのだろう。
フェンリルに変身するためか、小屋の外へと駆け出していった。
「あの、できればアンバスさんも同行してもらえると助かるんですが」
「……分かった。久しぶりに面白いもん見せてくれた礼だ。付き合ってやるよ」
僕はアンバスに礼を言い、ドゥーベを抱えて小屋の外に出た。
そこにはフェンリルに変身したナルがいる。
変わらず圧倒されるほどの白い巨体で、とても同一人物とは思えない。
「よぉし、じゃあ乗って乗って!」
僕たちが背に乗ると、ナルは凄まじいスピードで坂を駆け下りた。
この分なら村までそう時間はかからないだろう。
「おいハゲ。お前はファーリス村の人間か?」
ファーリス村に向かう途中、アンバスがドゥーベに話しかけていた。
「は、はい。そうッスけど?」
「そうか……」
アンバスはそれを聞いて何やら神妙な面持ちになる。
「アンバスさん、何か?」
「……いや、確証がねえ。いずれにせよ村に行けば分かる」
「……?」
アンバスの意味深な発言にどこか不安を覚えながら、僕たちは村への道を急いだ。
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