第53話 レオンの訪問(1)

「どうした?レオン」

俺は少し後ろの方に控えているサンジュリアンを見つつ、走ってきたレオンに話しかけた。


「兄上の部屋でお話ししても宜しいですか?」


「ここでは話しにくいのか?」


「少し頼み事なので………」


「そうか……まぁ良いが、後ろの者も一緒か?」


「はい!兄上に相談すればわかることを彼らも悩んでいたので、ぜひ!」


「ほぅ、では私の部屋に行こうか」

俺はレオンを促しながら、今出てきた自分の部屋へと入り、ソファへ座るよう促した。


だが、どうやらサンジュリアンもヒューリスティも席に座ろうとしない。


「どうした?座らないのか?」

レオンも促したが、頑なにレオンのソファの後ろに控えている気のようだ。


俺は気にせず話を進める事にした。

「さて、レオン、何の頼みだ?王妃の目がある中、こんな昼間に訪ねてくるなんて、よっぽどのことなのか?」


「母上は、我々が仲良いことは気付いていますよ。ただ怒るのであまり大っぴらに来ないだけで」


「大っぴらに今日きたのはなんでだい?」


「……兄上、怒らないで聞いて欲しいのですが、実は、父上から前王妃様の部屋の扉についている魔法紋について調査するよう言われたのです」


「なに!?父上はなぜ今更母上の部屋を……あの部屋を開け渡さなければいけない理由でもできたのか?」


「私の母上のせいではないですよ?」

レオンは肩をすくめながら俺が思ったであろう疑問に答えた。


「さすがに母上もアルストロメリア帝国の手前、正妃の部屋は欲しがりませんよ。ただの部屋ですし」


「そうだよな。じゃあ父上は何故そんなことを……」

俺は真意をはかりかねるという顔で沈黙しているとレオンが続けてきた。


「真意はともかく、どうやら父上は正妃の部屋にどうしても入りたいみたいだよ?俺だけだと不安に思ったのか、サンジュリアンとヒューリスティも同じことを調べてるから協力してもらえって言ったんだ。まぁ父上が指示したんだろうけど、図書館に行ったら本当に紋について調べてたからビックリしたよ。だけどさ、ヒューリスティが色々調べても謎は解けてなさそうだったから、やっぱり兄上を頼ろうかなと。多分父上が私に依頼したのも、兄上に頼めってことだと思うし」

レオンは最後は笑い混じりに言った。


「私は父上がどんな理由でも、母上の部屋は開けない」

俺はキッパリとレオンに向かって伝えた。


「えー。そんな。兄上頼むよ〜」

レオンは参ったという見かけだけだとわかる困った顔をしつつ、続けた。


「それじゃさ、教えてくれたら、薬の製作者を保護してもらえるよう父上に掛け合うからさ!」


「………なんだって?」

俺は何を言われたのかわからないという顔をした。


「何って。兄上、守りたい製作者がいるんだろ?父上がそう言ってたんだけど」

どんな凄腕の製作者なんだ?兄上。私にも教えてよ、とボソボソ言ってきた。


「私は守りたい製作者などいないが………」

と、そこで私はある事に思い至った。

教会で話にあがった薬。

先ほどから青ざめているサンジュリアン。

図書館で王妃の部屋と同じ紋を調べていた。


「……なるほど。そうか、私は脅されているのか」

ボソッと俺が言うと、サンジュリアンは明らかに、狼狽えていた。

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