第14話 領主代理グループ紹介

「今日学園終わった後、大衆広場の市場へ行ってみないか」


ディアナ嬢を迎えに行った馬車内で俺はそう問いかけた。


「市場、ですか?私は貴族街は数度出掛けたことがありますが、市場は初めてです」


「私もだ。だが、ちょっと気になることがあってな。共に散策しながら視察できたらと思ったんだ。もちろん、身分がばれないよう平民の服装もこちらで用意する」


「わかりました。殿下がそうおっしゃるなら同行致しますわ」




「ところで、話は変わるが、ディオルゲルがどこの領主代理プロジェクトに所属しているか知っているだろうか」


「申し訳ございません。学園内のことは秘密、と以前は教えてもらえず……昨日もあまり兄と話ができていないのです」


「そうか」



ガタッと馬車が停車した。

学園に到着したようだ。


俺は先に馬車を降り、ディアナ嬢に手を差し出し、ディアナ嬢は俺の腕に手を添え馬車から降りた。


昨日とは違い、令嬢や令息たちが次々に挨拶にやってきた。昨日気楽に接してほしいと俺が言った言葉がもう伝わっていたようだ。


笑顔で返すだけにし、正門で領主代理グループ紹介の案内を貰った後、そちらに早速向かうことにした。


「私は海の港ナティアのグループ紹介に行こうと思うが、ディアナ嬢はどこか行きたいところがあるか?」


「私はまだ案内を見たばかりなので数件見て回ろうかと」


「そうだな。では、とりあえず私とナティアグループに行こう」

とディアナ嬢を誘った。



そこへ

「麗しのランチェスター公爵令嬢、ご挨拶してもよろしいですか?」

とアランが寄ってきた。


「ご機嫌よう、アルストロメリア王子殿下」

と笑顔でディアナ嬢が答えると

「とても美しいね」と言いながら、


「殿下が二人だと紛らわしいから、私のことはアランと呼んでくれ」

と言った。


「では、アラン様と。私のことはディアナとお呼び下さい」と答えていたため、俺もすかさず聞いてみた。


「そういえば、ディアナ嬢。私のことも殿下、ではなくレイモンドと呼んでくれ。いや、長いからレイでもいい」と。


突然のことで、え?と怪訝そうな顔をしていたが


「それでは、レイ様と呼ばさせて下さい。私のこともディアとお呼びください」

と輝く笑顔で言ってくれた。


アランが、まだ名前で呼び合ってなかったのか?とビックリしていたが、俺は一歩前進できたことを喜んだ。


「ところで、海の港ナティアの紹介に行くのだろう?私も行くところだから」と、一緒に行くことになった。


ナティアグループの執務室に入ると、意外と空いていた。

寒い領地は人気がないようで、魚介類に興味がある者しか来ないようだった。


ただ、そこに運良くディオルゲルの姿があった。


「まぁ、お兄様。こちらのグループでしたの?」

とディアナ嬢が嬉しそうに近づいて行った。


「ディアナ、まさか海の港に興味があったとは思わなかったな。海の幸に惹かれてきたのかい?」

とディオルゲルが話しかけると


「まぁ、私が食いしん坊みたいにおっしゃるのね。私は殿下に誘われて来たのですわ」

とディアナ嬢が俺たちの方を振り返りながら答えた。


その言葉でディオルゲルは、まだ入り口付近にいた俺たちに初めて気付いたようだ。

こちらに近づいて来て、


「レイモンド殿下、アルストロメリア殿下、海の港ナティアグループへようこそいらっしゃいました」と挨拶してきた。


「港で栄えている地域だから興味があってね」

と無難な回答をし、俺は執務室に用意された見学者用の椅子に腰かけた。


それについてきたアランは、

「いきなり幸運だったね」

と小声で言ってきたが無視した。


しばらくしてディオルゲルによるグループ説明が始まった。どうやら、ディオルゲルはリーダーのようだ。


「今日は我々のグループ紹介に来てくれて感謝する。海の港ナティアは、アガパンサスの北に位置する領地で冬は氷点下、夏でも涼しいくらいの気温だ。主に漁港で栄えており、王都にも魚介類を流通している。昨年度から我が学園の領主代理プロジェクトに参加しており、領地内への移住者や観光客を増加させたい、と領主殿から要望を受けている」

と始めに説明があり、昨年度の実績を説明された。


どうやら、観光地化はあまり進んでいないらしく、働き手としての移住を推進したらしい。


俺は質問した。

「今年度はどういう方針か決まってるのか?」


「いえ。新年度となり、新しい要員を迎えてから決定しようと思っています」

と回答があった。

そこから、月に何度視察に行くのか、活動頻度はどれくらいかなど、他の者が質問し説明会は終了した。


その後ディオルゲルが近づいてきて、

「殿下。アルストロメリア殿下と一緒にこちらに入られるのはあまり宜しくないかと……来年度はおそらくレオンハルト殿下も入られるでしょうし」

と小声で話しかけてきた。


確かにだれ恋では、海の港ナティアグループへレオンが入っていた。レオンは水魔法に長けていて海流の流れを変えることで、ナティアのもっと奥深くの北に住む白イルカ、ベルーガを呼び出し定期的に見れる、という観光名物を作り出していた。


俺はレオンハルトには悪いと思うが、それを真似て観光名物を作り上げようと思っている。


ただ、ディオルゲルが元主君と現主君が同じグループでは気の毒かもしれないな、と思い、


「今年度だけの参加を考えている」とだけ伝え立ち去った。


"そいえば、なんでアランも一緒なことを気にしたんだ?"


と、ふと気になったが、ディアナ嬢が

「次はどこに行かれるのですか?」

と問いかけてきたためすぐ忘れてしまった。


その後、俺は目星をつけていたロデルナとメンフィスの紹介を聞いた後、学園の庭園でランチしないかとディアナ嬢を誘った。

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