第12話:白熱!!スライム試験

その後、俺達は10メートルもあるドアの前に移動させられる。


「でっけーな!!」


このドアが試験会場と繋がっているのだろうか?

なんだか受験前なのにワクワクしてきた。

そして、俺の目の前でそのドアはゆっくりと開き始める。

おそらく、このドアが開ききった時に試験は始まるのだろう。


「開始15秒前!!!」


さっき倒れてたばかりのあいつがタンカーの上からカウントダウンを始めている。

しかもキツそうにして、息をきらしながらカウントダウンを行っている。

休んでろよ………と言ってやりたいが、涙目になりながらも頑張っているのだ。

しかも転んだだけで瀕死状態になるやつだ。下手したらガチで死んでしまうかもしれない。

だが、あんな頑張ってるときに俺が同情してやったら、あいつは悲しむだろう。


「うーん。いったいどうすれ……………はっ!」


俺は素晴らしいアイデアを思い付いた。

これならあいつを傷つける事なく休ませてあげられるのだ。


「おい、あんたちょっとい……」

「スタートです!!」


現実は非常である。




 ドアが完全に開き終わり、走り出した参加者達によって司会者に言葉をかけてやる暇もなく後ろから押されてドアの中へ。

ドアの中へと入ると、建物中とは思えないほどの光が指してきた、蛍光灯とは違ったまるで外のような明るさである。

草は生え、風が吹き、鳥が舞い、花は咲き、スライムが大量にいる。

最後のは本当いらないと思うが、明らかに外に出たようだ。

しかし、付喪連盟の周りは建物ばかり建っててこんな場所はなかったはず。

もしかしたらあのドアに何か仕組みがあるのだろうか?




 こうして、景色を眺めているとふと気づいた事がある。それは誰もいないこと。

そして、ドアの上の方にデジタル時計みたいなのがあり、その数字がどんどん減っていってることだ。

これらから分かることそれは…………。


「試験はもう始まっているのか!?」


気づくのが遅かった。完璧にタイムロスだ。このままでは俺は不合格になってしまう。

周囲を見てみると、既にスライムを狩って点数を獲得していく者たちの姿が。


「ヒャハハハハハハ、この私にひれふしなさーい。スライムどもぶっ殺してあげるわ。死すべし死すべし死すべし!!!」


中には黒帝黒のようにスライムを大量に狩っていく者もいる。

これは急がなければスライムが狩りつくされるかもしれない。

俺は探した。くまなく探した。

あらゆる方角に走り、東に行ったり南に行ったり、北に来たり。

しかし、時すでに遅し。ほとんど他の参加者達に倒しつくされたみたいだ。




 結局、俺が見つけたのは花畑に座って日向ぼっこしているウサギ達だけだった。

スライムがあんなに殺戮されているというのに、ここは平和そのもの。

ウサギがぴょんぴょんと跳ねたり、鼻をひくひくと動かしたり。

白熱した試験とはまったく違う。休み時間のような平和な時間。

その暖かな雰囲気に飲み込まれて、俺はその花畑に座り込む。

風がサワサワと吹いて、太陽光が暖かくいい気持ちになりそうだ。


「ああ~」


もう気持ちがフワフワとして試験なんてどうでもよくなりそうになる。俺は疲れていたのだ。先ほど頭をフル回転させるくらい頑張って筆記テストを終わらせた。もう集中力は使いきって、後は疲労が残されている。

この時間がずっと続けばいいのに………。


ふと俺はそばにいたウサギ達の中の一匹に聞いてみた。


「おいウサギさん。俺をスライムのたくさんいる所まで連れていってくれ。」


俺は何してるんだろう? ウサギに話しかけた後、現実に戻る。

確かにここは異世界だからウサギもしゃべるかもしれない。

しかし、やはり見るからに故郷にもいた普通のウサギである。

そんな普通のウサギがしゃべるはずもない。


「よかった~。誰かに聞かれたら死んじゃうぜ。嗚呼、疲れてるのかな?」


そんな時、チラッとウサギを見ると、さっき話しかけたウサギが仲間の元を離れて森の方へ走っていくのが見える。




 「ん? まさか!!」


俺はそのウサギを追いかけていく。こんな話を聞いたことがある。

ウサギを追いかけていったら不思議な場所にたどり着いた……という物語。

そんなのが現実にあるかは分からない。だが、こうしてウサギに着いていく。

意味がないことなど知っている。時間の無駄だ。これはただの現実逃避にすぎない。

それでも追いかけずにいられなかった。

ウサギを追いかけて、坂を登り、川を渡り、草木をかき分ける。


そうして、どれくらいの距離を走っただろうか。

とある場所でウサギが急に止まった。

そこは木に覆われているが、微かに光が指しており、川の水が流れる音が聞こえる素晴らしい場所。

そして、そこには13体程のスライムがいた。


「お前…………!!」


ウサギは鼻をヒクヒクさせていた。まるで俺を助けてくれたみたいだ。本当に導かれた。このどう見ても普通のウサギに俺はこの場所まで導かれたのだ。


「ウサギさんありがとな。次会ったら沢山の人参をプレゼントするぜ。」


早速、俺はスライム討伐を始めることにした。


─────────────────

ビービービービー!!!

 他の参加者達が討伐数を稼ぐ中、突然警戒警報が辺りに鳴り響く。

その音を聞いた鳥達は騒ぎ飛び始め、風は止んだ。


「いったい何が起こるんだ。」


数人の参加者は不安になっている。なりやまない警報器が更に参加者の不安を煽る。スライムを狩っていた者たちはその腕を止めて、周囲を警戒していた。


「おい、あれ見ろよ。」


少し高台にいる参加者が森の奥の方を指差している。

その指を指した方向を何人かが見ると、激しい轟音をあげながら森の中の木々がなぎ倒されていく。何かが……巨大な何かが受験者のもとへと向かってきているのだ。

ゴゴゴ……!!!!


「あっあれは何だ!」


「鳥か? 飛行機か?」


「こっ、こいつはまさか……!!!」


そしてしばらくすると、その場にいた参加者の前にその正体が晒された。それは体長が10メートル以上はある怪獣みたいな巨大なスライムの姿であった。


「スライムだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。体長10メートルくらいのスライムだぞォォォォォ!!!」


一人がそう叫び、周りにいた者達も慌てて逃げ出す。

正体を現したその巨大スライムはボヨンボヨンと跳び跳ねながら、受験者たちを踏みつける。

もう試験なんてやっている暇はない。

みんな自分の命を守ろうと、必死に逃げ惑っている。

しかし、そのスライムは逃げ惑う参加者達に攻撃を与えている。

それは恨み。

スライム仲間を点数稼ぎに殺された巨大なスライムからの敵討ち。

辺りの物すべてを呑み込みながら大きなスライムは進んでいく。

また時々跳びはねて、地面を揺らしながら………。




 もはやスライムを討伐しようとする者はいない。

自分を守るために逃げ惑っている者もいれば、この状況を楽しんで見ている強者もいるようだ。

しかし、森の奥深くに黒きマントを着こんだ男が一人、岩に腰掛け座っていた。


「まったく、何故この時期になるとスライムの数が激減してしまうんだ?

人間どもめ。何を企んでいる?」


そう言って愚痴を呟いている男の周りからたくさんのスライム達が産まれてくる。

こうして産まれたスライムたちは森の奥へと姿を消していく。色々な形や種類のスライムが大量にこの世界にばらまかれているのだ。

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