第8話:助け船だよ。妙義鈴従さん

 これは夢だろうか。

俺には今の情報が信じられなかった。

テレビのスイッチを切り、さっきのジェニファーが言った言葉を思い出す。

「彼女は確かにクビになった人でも」と言った。

つまりクビになった人でも試験に合格できれば、また付喪人になれるということだ。


「つまり、まだチャンスはある。付喪人にもう一度なれる!!」


俺は心の底から嬉しかった。さすがに異世界に来ているんだ。普通の仕事で働くなんて、前の世界と変わらない。どうせなら前の世界に無かった経験を積みたい。そう思っていたからだ。


あとは、簡単なことだ。

俺は家から飛び出すと、ブロウドのようにチラシを探しに出かけた。




 実際、チラシはすぐに見つけることができた。

付喪連盟にでも行って、先ほどの係員に話をしてチラシを貰えばよかったからだ。

無事チラシを手に入れることに成功した俺は早速申し込むことに決めた。

ペンに住所と名前、その他諸々計10項目ほどチラシに書き、受付に提出する。

そして、あとは、日にちが経つのを待つのみなのだ。




 受験まであと一週間を切った頃。

俺は付喪カフェ(仮)でのんびりとお茶を飲んでいた。

最近は客足が少ないので優雅にお茶を飲むことができていたのだ。

店内には俺と英彦、そして金髪の美人なお姉さんが座っている状況である。

そんな静かな空間の中、俺の近くに座っていた英彦が、


「明山さん明山さん、あそこに座っている方はどなたですか?」


………と声を掛けてきた。


英彦が指を指しているのは、長い髪に白い服の金髪で、青色の目をしているお嬢さん。

少しピョンッと髪の毛が立っていて、刀を腰に差している。


「そうか英彦は初めて会うのか。

彼女は火曜日担当のバイトリーダー。『妙義鈴従(みょうぎ りんじゅ)』さんだ。

しっかり者で礼儀正しく優しいクールな美人さんだよ」


これじゃあべた褒めである。でも、それほどしっかりとしている人なのだ。

まぁ………実際、俺が知り合ったのは1ヶ月前でその時期より前にいたかは分からないので、先輩か後輩かは分かっていないのだが。

だが、そんなことはどうでもいい話である。




 声を掛けてきたついでに相席に座った英彦だったが、お茶を飲み終わった後、いきなり真剣な顔になりこう言ってきた。


「そういえば明山さん、付喪人になる方法は見つかりましたか?」


「あー、そんなことか。もちろん見つけたぞ。なんか試験的なのを受けて合格したらまた付喪人になれるみたいなんだがなー」


俺は二杯目のお茶をゆっくり飲みながら言った。


「付喪人の試験ですか。明山さんはもう申し込んでいるんですか?

なら僕も一緒に同行させてくれませんか?」


「別に構わないけどお前も試験を受ける気か?

なら急いで申し込んだ方がいいんじゃないのか?」


すると英彦は少し困った顔になり、


「それがですね。どこに行ってもチラシが置かれてなくて……。いつか見つかるだろうと勉強だけしてきたんです。

しかし、結局見つからないまま今日になってしまいまして……。

このままでは試験を受けることができなくなるんですよ。そこでお願いなのですがもし余っていたらチラシを頂けないでしょうか?」


つまり直訳すると、チラシを貰いそびれたのでくださいということだ。

しかし、俺はチラシを持っていなかったので渡すことはできない。


「悪いけ……」


「よかったらこれを使ってくれ!!」


その時、妙義さんがこちらに歩いてきて、手元からチラシを差し出してくれた。

意外な人物からの助けである。


「実はな。一枚余分に貰って………。いやだいぶ前に、客が忘れていったものだ。結局その人は取りに来なかったからあなたにあげよう」


ん? 今、彼女は何を言おうとした?




 試験当日

無事に申し込みを済ませた俺達は、試験会場である。

付喪連盟に来ていた。目の前にあるのは大きなビルのような建物。バイオンに壊されてから、まだ数日のうちにここまで修繕されているのは、やはりなにかすごい技術でも使われているのだろうか?


「明山さん準備はできてますか?」


英彦が不安そうに聞いてくる。彼もこの試験は初めてで不安なようだ。そんな彼を見るとなんだか受験の時の自分を見ているようで励ましてあげたくなる。でも、俺だって受験を受けるのだから、油断しているわけにはいかない。


「もちろんだ。こんなのすぐに終わらせて二人で合格しようぜ!!」


俺には何故か自信があった。もう受かる気しかしないと思っていたのだ。これを明山も受けて合格している。なら、俺だって合格しなきゃ、明山に頭が上がらなくなる。

だが、この時の俺はまだ知らなかった。 

この試験が大勢の受験者が合格を勝ち取るために戦うサバイバルゲームということを………。





─────────────

黒髪の女性は付喪連盟への道を大急ぎで走っている。

まるで遅刻でもしているような急ぎ方。

彼女がしばらく走っていくと、道の途中で数体の付喪神が暴れているのを見つけた。

民衆に訴えかけている選挙カーのように、彼はマイクを持って通行人に演説を行っているようだ。

その中でも特に体のデカイ奴が前に立ち、


「よく聞け人間達よ。我々は先の未来からタイムスリップしてきた。おい、そこの人間どもクスクス笑いながら道を渡るな!

お前も写真を撮ってネットに上げるな!

いいか俺達はこの町を壊滅させに来たんだぞ。そして俺はこいつらのリーダー格であるド……」


「どきなさーい。邪魔ッ!!」


ドカーンッ!!!

演説を行っていた集団は爆発の煙に包まれる。地面につぶれた蛙のように集団は気絶している。

そして、その黒煙の中から、先程の少女が飛び出して、そのままどこかへと走り去っていった。

彼女は暴れている付喪神達のリーダー格の名前を紹介する間もなく粉砕し、走り去っていったのだ。

その姿はまるで先陣を切り敵陣に突っ込む百戦錬磨の大将のように勇ましく、とてつもなく可愛かったのであった。

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