片想いの結末

枝咲

第1話 始まりと終わり

「初めまして、野崎くん。実は私ずっっっと野崎くんのことが気になっていたんです!」


「これ野崎くんが作った曲ですよね!私この曲を聞いたときビビッときたんです、この曲は私が歌うべき曲だと。もっと世の中に広めるべき曲だと。なので私と一緒に軽音楽部へ入ってくれませんか?」


そう言い僕が何度無視しても。諦めずに毎日話しかけてきて、腫れ物扱いされていた僕に初めて踏み込んできた花垣さん。

そんな彼女に根負けして入った部活であんな青春を送れるとは、人間不信で味方がいなかった一年前の僕には想像すらできなかった。


「野崎さん最近はーちゃんとよく話しているわよね、勘違いしないよう言っときますけど。はーちゃんは君の作る曲が好きなだけで君自身には1mmも興味ありませんから!!くれぐれも勘違いしないように。」

                       生徒会長に校内放送で急に呼び出されたと思えば。自分は花垣さんと何年も話せていないのに、僕だけずるいと仲直りの相談に乗ることになったり。


「…野崎、お前が書いた曲めちゃくちゃかっこいいな!!」


金髪能面で怖がられていた黒山が、部員が僕と花垣さんしかいない軽音楽部の部室にいきなり乗り込んできたと思えば。僕の作る曲が好きだから、ベースとして入れて欲しいと言ってきたり。



僕がキーボード、花垣さんがボーカル、生徒会長がギター、黒山がベースで始まった軽音部は文化祭を機に終わりを迎えようとしていた。


その日は大成功で文化祭を終えた記念にみんなで祝勝会を開こうと話をしていた。各自お菓子や飾り、飲み物を持参し1時間後にまた集まることになった。


「野崎さん、よろしければこの後お買い物にご一緒してもよろしいですか?」


「別にいいけど……。」


いつもはこういう時花垣さんについて行くはずなのに。珍しいなと思いながらも生徒会長と買い物を終えて帰る途中、僕達は公園に寄った。


「――野崎さんここを覚えていますか?」


「あぁ、ここはお前達の思い出が詰まった大切な場所だよな。」


「そうです。この公園は、はーちゃんとの思い出が詰まっている大切な場所。私にとって大事な人はこれからもこの先もはーちゃんしかいないと、ずっと思っていました。………そう思っていたはずなのに」


「――貴方がいけないんですよ。」


「はーちゃんに着いた悪い虫がこんなにいい曲を書けて。あなたと話しているうちにちに自分が貴方自身にも、つくりだす曲にもここまで心を奪われるとは思いませんでした。」


「野崎くん、私はどうやら貴方のことが好きになったみたいです。どうかこの先も私と一緒にいてくれませんか?」


もちろん生徒会長のことは嫌いではないし、部活を終えても生徒会長と恋人として過ごすことはとても魅力的ではあった。でも何故か僕の中でなにかが引っかかっていて、僕達の間に沈黙がはしる。


「いいんです、あなたはーちゃんのことが好きなんでしょう?」


「え?」


「こんなに可愛い女の子の告白の返事に対しえ?ですか、そうですか。まさか自覚なかったんですか?」


考えてみると当たり前ではあった。

誰とも関わらないように心を閉ざしていた高校生の僕が、花垣さんと関わってから人生は驚くほど楽しく充実していた。自分が作りだすものを初めて肯定してくれた彼女に僕が惹かれないはずもなく、この感情が恋愛だと言われてるとひどく腑に落ちた。


「そうみたいだ、ごめん。ありがとう」


「私が背中を押したみたいで癪ですけど、これではーちゃんと何もなく高校生活終えたら許しませんわ。」


「もちろん、今日伝えてみる。本当にありがとう。ごめん。」


「もういいわ、さっさと行きなさい。」


「あぁ。」


そう駆け足で部室に戻ってきたら、丁度そこに寂しげな雰囲気をまとっていた花垣さんが一人佇んでいた。


「花垣さんのことが好きだ!!これからは恋人として付き合ってほしい。」


僕はどこかで期待していたのだろう。

どこかの物語の主人公のように、貴方の曲を聴いたときから私もずっと好きだったと言ってくれるんじゃないかと。彼女と過ごした1年間は僕だけではなく彼女にとってもきっと特別なはずだと。


「ごめんね。野崎くんの気持ちはとても嬉しいけど、私は気持ちに答えることはできない。」


「私好きな人がいるの。それは追いかけても決して振り向いてくれなくて、17年間ずっと一緒にいるのに未だに理解出来ていない。

叶わないかもしれないけど。今はそんな相手をもうしばらく追いかけていたいの。」


「……そうか」


彼女の音楽に対する異常な熱と執着から彼女の片思いの相手は直ぐに分かった。

そう、僕は勘違いしていたんだ。彼女が好きなのは僕の曲であり、僕ではない。


「一つだけ、最後に願いを聞いてくれないか。」


「うん。」


「これからも僕は曲を作り続けるから、たまにでいいから聞いてくれないか?」


「もちろん、そんなことでいいのなら大歓迎だよ!」


あれから僕は今まで以上に曲を作り続けた。

それが幸をなしたのか、僕は4年後には仕事として曲を作っていて。

――――まさかまた、この4人で一緒に音楽を作ることになるとは、この時の僕は思いもしなかった。

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片想いの結末 枝咲 @mameeda12

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