ストーカー

「実は、最近ポストに変な手紙が入ってるんですよ。」


佐野先輩はいかにも興味津々といった表情で聞き返してきた。


「なに?変な手紙?」


「はい。差出人は不明なんですけど、"洗濯物は夜になったらしまえよ"とか、"電気つけっぱなしで寝るなよ"とか。一言だけ書いてあるんです。」


佐野先輩は気味悪がって言った。


「うわ、なんか気持ち悪いね。ストーカーなんじゃない?心当たりはないの?」


「それが全然思い当たる人はいないんですよね。」


首をかしげながら、話を続ける。


「一人暮らしなので何かあったら怖いなとは思うんですけど、ただの手紙なので今のところ実害はないですし…」


「そうだね、それだけだと警察もなかなか相手にしてくれないだろうからね。」


食堂にチャイムの音が鳴り響く。午後の仕事が始まる10分前を知らせるものだ。


私は急いで席を立ち上がった。


「まあとにかくさ、何かあったら駆けつけるから言ってよ。」


「佐野先輩って家どこでしたっけ?」


「高円寺」


「いや、私の家まで1時間はかかりますよ。つく頃には殺されてるかもしれないです。」


私が笑いながら言うと、佐野先輩もつられるように吹き出した。


「縁起でもないことを。」


佐野先輩は今日は午前上がりとのことだったので別れを告げる。そして、私は自分の仕事場に戻っていった。


部品工場の仕事は単純作業が多いため頭は使わなくていいが、非常に体力を消耗する。


それに時間の経過がとても遅く感じるのだ。


その日も、定時になる頃にはクタクタに疲れきっていた。


重い足取りでアパートまで帰ると、恐る恐るポストの中を覗いた。


白い無地の封筒が入っているのを見つけ、ため息を吐く。


以前は週に1回だったが、ここ最近は週に2回くらいのペースで投函されている。


部屋のなかに入ると封筒を開け、中の便箋を広げると、紙の中央に1行だけメッセージが書いてあった。


「鍵はちゃんと閉めないとだめだよ。」


さすがに今回の内容にはゾッとした。


ドアの鍵が閉まっていることを確認すると念のためチェーンをかける。


身近に頼る人がいなかった私は佐野先輩に電話をかけた。


しばらくすると鳴り始めるコール音。


その瞬間だった。


「ブー、ブー、ブー」という振動音が押入れの中から聞こえてくる。


「えっ…」


唖然としながらそちらを見つめているとゆっくりと扉が開いた。




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どんでん返し あいうら @Aiura30

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