死因

とある定時制高校の教室。毎週月曜日に開かれるホームルームの時間に、担任の先生が神妙な面持ちで切り出した。


「えー、今日は皆さんに大事なお話があります。」


いつもと違う様子に生徒達も何かを感じ取ったのか、真剣な眼差しで先生を見つめる。


「2週間ほど前からお休みが続いていた伊藤くんですが、今朝親戚の方からご連絡があり、亡くなられたとのことです。」


「えっ」


クラスのムードメーカーで伊藤くんと仲の良かった拓也は、思わず声を漏らした。


他の生徒も驚きで身体が固まっているようだ。


「本人の希望で皆さんには知らせていなかったのですが、実は先週からかなり体調が悪化していました。」


「そんな…休む前までは元気に登校していたじゃないか。」


信じられないという表情で拓也が言った。


「伊藤くんは、その時が来るまでみんなには内緒にしていてほしいと、就職や受験前の大切な時期に邪魔をしたくないと言っていました。」


この高校の生徒は卒業すると、およそ半分が就職、そして残りの半分が大学へ進学する。12月の今は、どちらの生徒にとっても人生がかかった重要な時期だった。


普段は大人しい一人の女子生徒が涙を流しながら言った。

「なんでよ伊藤さん。色んなことを教えてくれたじゃない。でも肝心なことは教えてくれないのね。」


伊藤くんは博識だったので、他の生徒から頼られることが多く、一部から「先生」と呼ばれることもあった。


この女子生徒は、特に伊藤くんのことを尊敬していて、休み時間になると彼に色んな質問をしていた。


先生は少しでもみんなの気持ちを軽くしようと、病室での伊藤くんの様子について話し始める。


「先生が会った時、伊藤くんはたしかにやつれていました。でも彼はずいぶん前にお母さんを亡くしていましたからね。あっちの世界で久しぶりにお母さんに会えるのを、それはそれは楽しみにしてました。」


それを聞くと、生徒達は少し安心した表情を見せたが、すぐに我慢していたものがこみ上げてきたようだ。


しばらくの間、教室には泣き声や嗚咽だけが響いていた。


そして、拓也がおもむろに口を開く。

「それで、伊藤さんはどんな病気だったんですか?」


先生はこればかりはどうしようもないという、諦めたような表情で答えた。




「老衰です。」






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