桜の木

これは戦後まもない頃に私が経験した話だ。


「ほら、 校庭の脇に桜の木が生えてるだろう。 春になると綺麗に咲くんだけどさ、よく見ると一番端の木だけ花びらの色が濃いんだよ。それって地面に死体が埋まってるかららしいぜ。」


小学校に入学したばかりの頃、私は友人の武志くんからその話を聞いて、とても怖かったのを覚えている。


武志くんは面白い話をたくさん知っていたので、 すぐにみんなの人気者になった。


しかしその冬、武志くんは突然行方不明になってしまった。


両親をはじめ、警察や村の住民が懸命に捜索したが、結局武志くんが見つかることはなかった。


正直、私が小学生の頃は時代的な背景から、子どもが行方不明になることは珍しくなかった。


道路も未舗装であったため不幸な事故に巻き込まれた可能性もあったし、貧しい人間の手によって売り飛ばされるなんてことも起きていたのだ。



月日が経ち、小学校の卒業式の日、私は満開に咲く桜の木をみながら、武志くんのことを思い出していた。


校庭の脇に計10本ほどある桜の木は、どれもきれいに咲いている。


「端っこの木は花びらの色が濃い、か。どれも変わらないような気がするけどなあ。」



それから5年後、高校生になった私はテレビ画面に釘付けになっていた。


そこには、私の小学校で教頭を務めていた男が警察に連行される姿が映っている。


「容疑者は当時6才の武志くんを殺害後、校庭の木の根元に埋めたと供述しています。警察では、過去に起きた同様の児童行方不明事件に関しても、余罪を追及しているとのことです。」

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