どんでん返し
あいうら
自動販売機
「ガタンッ」
外で何かが落ちるような音がして夕貴は目を覚ました。
時計の時刻は午前2時15分を指している。窓側に背を向けるように寝返りを打つと、すぐにまた眠ろうとする。
するとまた外で「ガタンッ」という大きな音がした。
「こんな時間になんだよ」
眠い目をこすりながらも起き上がると、カーテンの隙間から外を覗く。
最初はどこから音がしているのか分からなかった。しかし、よく見ると夕貴が住んでいるアパートの前に設置された自動販売機のところに女が立っている。地味な格好をしたその女は40~50代くらいだろうか。
「ガタンッ」
慣れた手つきで小銭を入れると無造作に購入ボタンを押し、飲み物が音を立てて取り出し口に出てくる。そして、持参したであろう段ボール箱に飲み物を入れている。
しばらくすると、女はいっぱいになった段ボール箱を重そうに抱えて立ち去っていった。
「何なんだあいつ」
夕貴はその不気味な光景にしばらく呆然としていたが、やがて押し寄せてきた眠気に身を任せた。
「ガタンッ」
あれから3日が経ったが、午前2時になると毎日あの女が姿を現し、自動販売機で大量の飲み物を買っていく。
夕貴はその音に睡眠を妨げられ、寝不足になっていた。仕事の繁忙期だったこともあり、我慢の限界を迎えていた。
「あの女また来やがったか」
夕貴は外に出ると、音が立たないように気をつけながら、女の様子を窺った。
自動販売機の明かりに照らされた女の顔はかなり頬がこけており、鳥類を連想させる。
その女から何となく異常な雰囲気を感じ取った夕貴は関わらない方がよさそうだとも思ったが、ここのところ悩まされているだけに、このまま帰るのは癪だった。
しばらくすると女が段ボール箱を抱えて立ち去ろうとしたので、とりあえず後をつけてみることにした。
女はその痩せこけた手足からは想像もできないような力で段ボールを抱え、誰もいない夜道を進んでいく。
そして10分程度歩いたところで、「高橋商店」という看板がかかった古い家の前で足を止めると、ふらふらと家の中へ入っていった。
ここはたしか乾物を売っている店で、気前のいい店主がいた気がする。となると、あの女は店主の奥さんなのか。少しは話が分かるかもしれない。
夕貴は、ここまでつけてきたこともあり、思い切って夜中の自動販売機の利用をやめてもらうよう訴えることにした。
インターホンを押すも反応がなかったため、ドアをノックした。
「すみませーん、話があるのですが。いるの分かってるので開けてもらっていいですかー?」
しばらく待ってみたが人が出てくる気配がなかったため、ドアノブに手を掛けると「カチャ」と音を立ててドアがゆっくり開いた。
「すみませーん、奥さんはいらっしゃいますよね。どうしても話したいことがあるので上がらせてもらいますよー。」
海苔や昆布などが陳列されている商品棚の間を縫うようにしてに進んでいくが、暗くて歩きづらい。
店の奥まで来たところで急に店内の電気がついた。
最初はその明るさに目が眩んだが、徐々に目がなれてきたようだ。そう思うと同時に夕貴は自分の意識が何かを必死に避けようとしているのを感じた。しかし、その光景は鮮明に夕貴の目に入り込んできた。
そこにはレジの小銭入れの上に覆い被さるようにして、大量の血を流して死んでいる店主の姿があった。
「うわっ」
夕貴は腰を抜かしてその場に倒れてしまった。
しばらく動けずにいると、出刃包丁を持ったあの地味な女が、不気味に口角を上げて夕貴の後ろに姿を現した。
「ふふふ」
女は夕貴を見下ろしながら低い声で笑っている。
「どうしても血が落ちないのよ。でももったいないでしょ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます