第16話願望と葛藤の狭間

こちらは刹那たちの拠点、そこには前のビルの面影はなくドルクスの仲間たちによる改造が施されたことで、完全な要塞と化していた。

その中の作戦会議室で、刹那は独断で遊撃隊へスパイをしに向かった来馬からの知らせが来るのを待っていた。

「いくら待っても来ないよ、とっくに処刑されているさ。」

シュウたちが刹那をからかうと、刹那はシュウたちをにらみつけた。

「何言ってんのよ!!来馬が簡単に殺され」

と刹那が言った時だった、刹那のスマホに通知が届いた。そして刹那がスマホを見ると、来馬からの知らせが来ていた。

「来た!!来馬からの知らせだ!!」

「ウソ!!」

刹那とシュウたちはスマホをのぞきこんだ、そこにはアゴノと下僕たちがどんな活動をしているのか、アゴノは自分の体内に下僕たちを収容して遠くへの移動が可能なこと、などといろんなことが記されていた。そして最後の部分にはこう書かれていた。

「実はアゴノにスパイであるということを知られてしまった・・・、でもアゴノはぼくを味方にしようとわざと生かしている、おまけに下僕たちにも根回しをして協力させているんだ。だけどぼくは決してアゴノの思う通りにはならない。刹那と一緒に死ぬまでは負けない。」

刹那は来馬が生きていることにほっとした。

「よかった・・・、急にいなくなっておどろいたけど、なんとかがんばっているみたい。」

「ふ〜ん、来馬生きていたんだ。でも、どこまで持つかな?」

シュウは刹那をあざ笑うように言った、刹那がなにか言う前にシュウたちはしっぽをまいて逃げ出した。

そしてドルクスと会った。

「シュウ、そんなに急いでどうしたんだ?」

「それが、遊撃隊のとこへ潜入した来馬から知らせがあったんです。ただわかったことはもうおれたちが知っていることばかりでしたけどね。」

「そうか・・・、となると新しい情報の入手はあまり期待はできないな。」

「それとやはり来馬は、アゴノにスパイだと見抜かれたようです。そしてアゴノは来馬を下僕にするために、あえて生かしているようです。」

「全く・・・、あいつらしいな。ところで刹那はいるか?」

「あたしになんの用?」

刹那が顔を出した。

「今からキラウエア火山へ行くぞ、ラブァ・モンスターの様子を観察する。」

「えっ!!今から!?」

「ことは一刻を争う、アゴノに対抗するためにも急速に戦力を集めてととえなければならない。」

「わかったわ。」

こうしてドルクスと刹那は、キラウエア火山へと向かっていったのだった。









一方、こちらは小牧市の某所にある遊撃隊の秘密基地。来馬は雷太という名前で潜入に成功したものの、アゴノに存在を知られていまい、味方にするために処刑されずに生きつづけている。

そんな雷太はアゴノからある仕事を任されている、それは田中長ケたなかながゆきくんの遊び相手である。

田中くんは中学三年生で、陸上で非常に優勝な成績を修めている。そして来年には陸上で有名な高校へ行くことが決まっている。しかしそうなると田中くんの一家は引っ越しをしなくてはならなく、友だちとも離ればなれになってしまう。田中くんはそんなつらい気持ちに押しつぶされてしまい、陸上にもその影響が出てしまった。そしてそのストレスで田中くんは、半ば引きこもり状態におちいってしまった。そこで田中くんの心をケアするために、遊撃隊に依頼しにきたということだ。

雷太と一緒にこの依頼をするのは、ジャッカルギーとボーとヒカリである。

「あれ?ヒカリとボーも参加するの?」

「前にも言ったけど、遊撃隊では別のグループと協力することがある。どの依頼に誰が行くのかは、全てアゴノ様が決めるからこうなることはよくあるんだ。」

そして雷太はヒカリたちと一緒に、田中くんの家にやってきた。

インターホンを押すと、田中くんの母親が顔を出した。

「ご依頼を受けて参りました、田中くんはいませんか?」

「長ケ之は学校なので、もう一時間すれば帰って来ます。どうぞお上がりください。」

四人はリビングへ通された、雷太は母親に質問した。

「長ケ之くんはそんなに酷い状態なのか?」

「いいえ、ただやはり友だちと離れるのはとてもつらいようで、学校に行くのがやっとな状態です。」

こうして四人はリビングで、お茶を飲みながら長ケ之君の帰りを待った。

「どうやって元気づけるんだ?」

「元気づけるよりも、むしろどっちかを選べるまでは声をかけ続ける方がいいと思う。」

「は?おれたちは長ケ之を元気づけにきたんじゃないのか?」

「それもそうだけど、これからの人生を自分で決められるようにならなくては生きていけないんだもの。私たちにできることは、長ケ之くんが決められるまで心をいやしてあげることよ。」

ヒカリの言うことに雷太は納得した。

そして数分後、長ケ之くんが帰宅した。

母親に言われて長ケ之くんは、リビングのソファーに座ってあいさつをした。

「はじめまして、田中長ケ之です。」

彼は無表情でシンプルにあいさつをすませた。

「はじめまして、ヒカリです。こちらはボーくんとジャッカルギーくんと雷太くんです。よろしくね。」

それに対してヒカリのあいさつは、満面の笑みでとても明るい印象だ。それを見た長ケ之は心をかすかに動かされたようだ。

「私たちは、あなたの心をいやすために来ました。もし悩みがあるなら、教えてくれないかしら?」

「・・・聞いてくれる?」

長ケ之は小さな上目づかいでヒカリの顔を見た、そして自分の胸の内を明かした。

「ぼくは元々一人ぼっちだったんだ・・・、お父さんはぼくが小さいうちに亡くなって、お母さんは遅くまで働いているから夜は基本的にぼく一人だけなんだ。だけど学校に行けば気の合う友だちに会うことができるから、それでさみしさを紛らわすことができた。だけどぼくが通う高校は友だちとは違うところ、そうなればまた一人ぼっちになってしまうんだ。それがとても辛くて・・・、陸上にも力が入らなくなってしまったんだ。通いたい高校に行きたいけど、友だちとも離れたくない・・・。ぼくは一体どうすればいいんだろう・・・。」

二つの願望のどっちを取るか、葛藤する長ケ之にヒカリは言った。

「うーん、もうどちらかを諦めるしかないわね。どっちもあなたにとっては大切なものだけど、やっぱり一つにしぼらないといけないし、もしさみしいのがいやなら、いっそのこと陸上なんてやめちゃってもいいわよ。」

「えっ!!でも、陸上も続けたい。」

「じゃあ、友だちをあきらめるしかないわね。というより、その友だちと連絡とれないの?」

「連絡はとれるよ、だけどいつも顔を合わせられないのがつらいんだ。」

「だったら、写真を持っておくのはどう?その友だちとの写真を。」

「写真・・・、そうか!」

「そうよ、いつまでも友だちという証明になるわよ。」

「ありがとう、いいアイデアをくれて。」

「どういたしまして、それなら写真撮影のことは私たちに任せて。」

「いいの?」

「もちろんよ。」

そして五日後に写真撮影の計画をすることになり、それから十五分後にヒカリたちは家を後にした。









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