第84話 カリナ、人質の囚われた場所を探す

 私(カリナ)が病院の前へ訪れると、辺りの通行人の視線を一点に集めてしまった。

エレファントの巨体もそうだが、女の身体で背負っているのが不思議でしょうがないのだろう。

目立ちたくはないが、彼の安否に関わるからしょうがない。


「この方の治療、お願いします」


 私は病院の者に治療費を渡し、戸惑われながらもその場を去った。

色々説明をしなければいけないところだが、ミリアさんにあることを頼まれている。

マナフェスの首から下げていたあのロケットペンダントに写っていた場所についてだ。

あの場所へ行き、人質を救出すればイヴァンたちの悪事を訴えることができる。

大会で優勝して王に謁見できたところで、事情を理解してもらえるとは思えない。

だが人質の証言があれば話は別。


◆◇◆◇◆


 イヴァンの屋敷を数件巡察したが、人質の影は確認できなかった。

隠し部屋等もすべて把握していたつもりだが、もしやイヴァン本人しか知らぬ場所があるのかもしれない。

ん?

これはクロノスからの密書か?

イヴァンの書斎を調べる途中、引き出しの中からそれを見つけた。

内容は別に関わるものではないが、盲点だったな。

クロノスの屋敷は一度同行して訪れたことがあったが、死臭のようなものを一瞬嗅いだ気がする。


◆◇◆◇◆


 クロノスの屋敷へ来てみたが、なんだこれは。

以前来た時も掃除がされていないと思ったが、さらに悪化している。

使用人を雇っていないのか?

いや、そうではない。

使用人を屋敷に入れることができない事情がある、ということかもしれない。

そうだとすれば、人質を捉えている可能性は高まる。

少し進み、手前の角を曲がるとと生い茂っていた雑草がパタリと消えた。

消えたというより、地面を直線状に何かが通ったせいで根絶やしとなっているようだ。

その何かが通った後の端にある草は灰になっている。

私はその直線をなぞるように視線を向け、目の前の壁を終点と知った。


 これは、見覚えがある。

というより、ふざけるなよ。

壁は何かによって破壊され、がれき跡となっていた。

この光景、忘れもしない。

里を襲った翼竜のブレスとまったく同じ痕跡。

クソ!

拾われてからずっと、頭から消えない疑問だった。

なぜイヴァンは素早く里へ現れ、水の魔法を得意とする魔法使いを連れていたのか。

私はなんて、愚かなんだ。

自分の人生を狂わせた男のために、今まで殺してきたなんて......。

あぁ、気が狂いそうだ。

十数年、本当に私は何をして......。


 目を閉じ、心を落ち着かせようとしたその時だった。

耳の感覚が少し鋭くなったおかげか、背後から何かが飛んでくる気配がする。

咄嗟に首を傾け、それを交わした。

こめかみに僅かに掠り、赤い雫が首筋を通る。

振り返った直後、左目の視界が暗くなった。


「ハハハ! 流石、同業者だねぇ。バルーンフィッシュの即死級の猛毒。それを掠っても失明するだけか。よく訓練された奴隷だ」


 目の前に現れたのは、ニヒルな笑顔をする男。

バルーンフィッシュの猛毒、それを刃物に仕込んでいた。

こいつはクロノスの奴隷か?

それとも......。


「俺はバーダだ、よろしくな。クロノスに雇われて、殺し屋をしている」


「ふん、ベラベラと情報を漏らす奴だな。仕事としてどうなんだ?」


 私は彼の様子を伺いつつ、腰に携えた袋から解毒剤を取り出した。

すると、バーダと名乗る男は両手をふってどうぞとジェスチャーする。

なんだこの男の余裕ぶりは、私よりも格上と言いたいのか?


「誤解しないでくれよ。君が強いってわかったから、プラン変更だ。俺はね、今まで一般人の泣き叫ぶ声を聞いて来たけどさぁ」


 飛び道具のクナイを複数取り出してから、こいつの雰囲気が変わった。

同じ笑みだが、どこか狂気を含んで見える。


「あいつらすぐ騒いでつまらないんだよねぇ。でも君なら、どこまで耐えられるか楽しみだなぁ。目をくりぬいたら叫ぶ? 爪を剥いだら? ワクワクしてきたよ!」

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