第83話 決勝戦 シュンVSクロノス 前編

 カタリナさんもシュエリーさんのように、傷だらけになってしまった。

カリブは彼女を背負い、俺の横を通る。


「シュン、お前は仲間を大切にしろよ。そして勝て、俺の分もな。じゃあ」


 そう言い残し、立ち去っていく彼の後ろ姿は悲しそうに見えた。

カタリナさん、カリブのためにあそこまでするなんてな。

でも、そうだよな。

仲間が敗れたら自分がその分背負って戦わなくちゃいけないんだ。

俺も、シュエリーさんのために……。


 うーん、だけど自分が勝っても彼女の願いは叶えられるのか?

そう悩みながらフィールドへ到着すると、歓声があちこちから届いた。

これは、俺を応援しているのか?

思えば、第一試合の暴言の嵐からよくここまで……。


「やっと決勝戦らしいなぁ。ふぅ、この時を待ってたぜガキ! 気絶の借り、半殺しで返させてもらうぜ」


 クロノスは現れると同時に、そうこちらへ声をかけた。

俺は、彼の言葉よりもあることを考えていた。


「みなさん! ここまで応援してくださってありがとうございます!」


 声を張り上げ、観客を見渡した。

優勝できなくても、いい。

俺たちのことをちゃんと知ってもらえばいいんだ。


「俺とシュエリーさんは、パーティーを組んでいます! 本大会に出場したのは、ランク制度を見直してもらいたいからです!」


 よし、言ってやったぞ。

言い終わると、観客席は罵倒こそなかったものの困惑で満ちた。

そして、誰かが質問を投げかける。


「シュン! 具体的には何を望んでおるのだ!」


 その誰かの声は、空から聞こえたように思えた。

顔を上へ向けると、最上階から身を乗り出す誰かが見える。

あれは、もしかしてカエサル王!?


「お主の働き、大変関心した。また、村人冒険者のシュエリーもじゃ」


 王は親衛隊に身を支えられ、姿をデッキから引っ込めた。

観客は一瞬静まりかえるが、ポツリポツリと声援が戻っていく。


「仕方ねぇな、応援するぜシュン!」


「いい加減にしろてめぇら! マナフェス! ゴング鳴らせよ早く!」


 無視したことや、自分が注目されないことにカチンときたのか。

クロノスの怒りは頂点に達し、その気迫に押されたマナフェスは開始の合図を響かせた。

俺は観客から対戦相手へ視線を向ける。

シュエリーさん、俺はこの試合勝てるとは正直思えないよ。

けど、この一戦で誰よりも記憶に残る戦いをするつもりだ。


「人魔一体、ゴーレム!」


 怒りに任せたその一振りは、奇跡的に頬を掠めるだけで回避できた。

絶好の機会と捉え、魔闘器の力で腕ごと巨体を空中へ投げ飛ばす。

そして空中に浮いたゴーレムに向けて、バスターを放つ。

頭だけを残し、その頑丈な身体は消滅した。

光の柱が空から無くなっていくと、観客は驚く。


「な、言っただろ! 第1試合で俺が見たのはこれだよ!」


 観客の1人が騒ぎ立ち、そう周りの客へ伝えている。

俺にできるのはこれだけだ。

現在の魔法属性にない規格外の魔力攻撃、ランク制度では推し量れない規格外の力。

この力を見せつけ、それでもランク制度が正しいというのならもう何もできない。

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