第74話 シュン、シュエリーの対戦相手を知る

 入場口へ戻ると、またシュエリーさんが待っていた。


「因縁の相手に見事勝利! って感じかしら?」


 面白がる彼女と反して、俺は別に凄いこととは思わなかった。

カリブの戦いの癖や性格、パーティーの頃から把握している。

だから天才と呼ばれる彼に勝てたのだろう。


「才能もない俺が勝てたのは、偶然ていうかたまたまだよ」


 戦いの中で必死に隙を見つけて、ボロボロになって勝利というのが俺のいつものパターン。

これじゃあ偶然というほかないよな。

そういうとシュエリーは鼻で笑った。


「馬鹿ねシュン。才能はあなたの方があるわよ」


「え? 俺の方があのカリブより? 信じられない」


 バスターなんて威力は高いけど、使い勝手悪いし才能というにはあまりに不便だ。

困惑する俺に、シュエリーは言葉を続けた。


「私はね、才能というのはある2つを組み合わせて初めてそう呼ぶと思うわ。なんだかわかる?」


「血筋と身分とか?」


 そう答えると彼女はブブーっと破裂音を出した。


「生まれ持った天性の才と、努力の才よ。

いくら天才と呼ばれる才能があっても、それを創意工夫を持って活かそうとしなきゃ意味がないわ。

加えて、その創意工夫を成り立たせるには絶え間ない持続的な努力が必要。

つまり、どちらも併せ持って初めて才能となるの」


 そうか、カリブは自分の天性の才能に自惚れて大して訓練をやってこなかったんだ。

俺も、彼女と出会うまではバスターを活用しようなんて思いもしなかった。

天性の才と努力の才、なんかすごい納得した。


「ありがとうシュエリーさん! 俺なんか、カリブに勝って嬉しくなったよ」


 俺は彼女の両手を掴み、近寄った。


「え、ちょっと近い。……キモい」


 うん、今の俺ってすごいキモいや!

でもこの感謝を伝えるには、致し方なし!

卑屈な自分でも、肯定的に考えれる理論っていうか物の見方?

そういうのを知るとなんだか少し前向きになれる。


「ま、まぁいいわ。じゃ、私も試合があるから」


 ドン引きした彼女は、戦闘フィールドの方へ向かい、階段を登っていった。

俺はというと、少し距離を離すまでニコニコと手を振っていた。

しかし、ふと冷静になり彼女を呼び止める。


「待ってシュエリーさん! 言い忘れてたことがあった」


 俺は急ぎ足で彼女の前に立った。

先ほどからの言動に、大変混乱しているのか、辛口な彼女も引いた目を維持する。


「あなた、もしかして試合前にキメてないわよね? なんかいつもより数倍キモいんだけど、ていうか怖い」


「キメてないわ! ていうか俺のことずっとキモいと思ってたの? ひどっ!」


 勇気づけられたのに、再び地の底まで自己肯定感を不時着された気分だ。

じゃ、なかった。

そんなことより重要なものがあるだろ俺!


「試合中、不自然な風が妨害してくるから注意して。

多分ていうか、十中八九イヴァンの妨害だと思う」


 そうそう、これを言いたかったんだ。

あの厄介な妨害、攻撃でも防御でもかなり意識を持ってかれる。

肩で息をしながらそう伝えると、彼女はため息を漏らした。


「なんだそっちねぇ。私はてっきり対戦相手のことを言うのかと思ったわ」


「対戦相手? シュエリーさんの相手って酔っ払って不規則な動きするから運良く勝ち上がって来た人じゃなかった?」


 そう、お爺さん魔法使いで試合中は毎回酒を飲んでいた。

観客や対戦相手がその様子を見て毎回舐めてかかるから、運良く勝ち上がって来た。

と、俺も参加者もそう分析している。


「いや、あのジジイなかなかの曲者よ。酔っ払ってるふりして、決める瞬間は素面でも難しい高度な魔法を発動させているわ」


「そ、そうなんだ。知らなかった」


「ま、なんとかやって見るけどね。少なくとも私は、他の対戦者みたいに油断はしないから」


 そういうと後ろ姿で手を振り、フィールドへ向かった。

シュエリーさんがそこまで注意を払う相手か、大丈夫なんだろうか?


「シュンさ〜ん! 大変です! 急いでシュエリーさんを棄権させてください!」


 心配していると、大声で胸をふらしながら迫ってくるミリアさんがいた。

どうしてここにミリアさんが?

というか棄権ってなんだ。


「どうしたのそんなに慌てて。カリナさんは一緒じゃないの?」


 目の前にたどり着いた彼女は、息をゼェゼェと吐きながら応えた。


「か、カリナさんはエレファントさんを病院へ運んでいます。そ、それよりシュエリーさんは?」


 あのエレファントさんが病院へ!?

その情報が耳に入るだけで、棄権しろという話に不安を感じる。

無言の俺に察しがついたのか、返答を待たずに彼女は話し始めた。


「実は、シュエリーさんの対戦相手はこの国随一の魔法使いクロノスなんです!」


「ク……クロノス!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る