第73話 シュンVSカリブ、譲れない戦い。後編

 ド、ドラゴンキラー......なんとか防いだぞ。

斬撃が放たれた直後、俺(シュン)は飛ばした石ころに魔闘器をぶつけて衝撃波を起こした。

同時に太陽を背にすることでカリブの隙を伺っていた。

なんとか形勢は逆転したけど、少し問題が残る。

左脚の魔闘器を破壊されてしまったから、飛行がかなり不安定だ。

この状態で今溜め込んでいるあいつの攻撃を受けたら、ヤバいかもしれない。


「冒険者シュン、有利な位置を捨てて地上に着いた! これはどういう作戦だぁ?」


 いや、作戦じゃないんだけどね。

石の残弾もなくなって、飛ぶのも難しいから仕方なく地上戦をするだけだ。

にしても、あいつずっと魔力溜め込んでまだ攻撃してこない。

俺がパーティーだった時は七星斬、ドラゴンキラーがあいつの大技だった。

どちらもあそこまで時間は掛からないはずなんだがな。

石を拾いあげると、カリブは目を大きくしてこちらを見た。

ん? そうかわかったぞ。


「カリブ! お前まさか、MPが切れているのか?」


「はぁ!? この俺様がそんなミスするわけねぇだろ? てめぇを確実に殺すためにしてんだよ」


 はぁ、本当にありがとうカリブ。

そのわかりやすい性格、敵になるとこうも戦いやすいなんて思わなかったよ。

石の弾丸を飛ばすと、カリブは溜め込むのを中止して円を描くように走り逃げた。


「おっと! 戦いも立場逆転かぁ? カリブが放たれる石の攻撃を逃げるしかできないぃ!」


 マナフェスがそういうと、観客は笑い上げた。


「ハハハ! カリブ、お前それでも勇者パーティーのリーダーかよ。カエサルの再来とか言われてたけど、バカ猿の到来だろこれぇ」


 誰かがそう上ずっていうと、呼応するように会場中が爆笑に飲まれる。

辛いかカリブ?

人に馬鹿にされる日々、それがどれほど心にくるか今のお前ならわかるだろ。

だけど、俺はお前に同情もしない。

けれどせめて、この試合で負けて少しは横柄な性格を直せ。


「ふざけるなシュン! お前、こんな勝ち方でいいのか!」


 カリブは逃げながらそう言い放つ。


「カリブ! お前、ゴブリン討伐でもMP切れしたんだろ!」


 カリブの失敗の連鎖は全て、そこから始まった。

ミリアさんから聞いた話では、さんざんな負け方をしたらしい。


「だからなんだってんだよ! それと勝ち方、関係ないだろ!」


 俺は弾丸を飛ばすのを止め、カリブに接近した。

奴の性根を叩き切るには、正面で戦うしかないだろう。

別に同情というわけではないが、俺も変わったのだから彼も変化するきっかけがあってもいいはずだ。


「へっ、正々堂々と勝負する気になったか」


 ここまでいってもまだ、自分の弱点を理解しないのか。

近づいた俺に油断したと思ったのか、ニヤリと口角を吊り上げる。


「ハハハ! だから雑魚なんだよてめぇはぁ!」


 カリブは砂をふりかけ、視界を奪ってきた。

目を再度開くと、剣が振り下ろされていた。

俺は腕の魔闘器に魔力を大量に蓄積し、その攻撃に相対する。

カキーンという金属音が鳴り響いた後、カリブの剣先は魔闘器の力によって吹っ飛ぶ。

剣の破片は彼の頭上の紙風船を貫通し、遠くへ飛んでいく。


「あぁ!? な、なんだよお前のその魔闘器!」


 カリブは苛立ちのあまり、試合が終わっても殴りかかろうとする。

俺はそれを見切り、少し距離を置く。


「お前、忘れたのか? 俺は魔力量が人より多いってこと。この魔闘器はMPをそのまま攻撃に変換できるから、俺が使うとこうなるんだ」


「ふ、ふざけんなぁ! こんな試合無効だ! 俺がMP切れしなきゃ、お前なんかに負けるはずないんだ!」


 さらに迫ろうとするカリブだが、審判員たちが止めに入る。

身動きをとれないまま、彼は入場口の方へ押されていった。

押される最中、観客からは散々な暴言を吐かれていたのは少し気の毒に思う。

これで彼は、また次の大会があるまでは汚名を被り続けることになるんだ。

だが、俺はお前に構ってる余裕はない。

この大会で優勝して、不公平なランク制度、親父たちへの暴言、この国の腐敗。

全て変わるのかどうか、わからない。

けど、ギルドで底辺と烙印を押された俺らが勝ち上がることで、何か起こるのは間違いないはずなんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る