第66話 シュン、目覚めるとシュエリーがいた

 視界が突如、明るくなる。

ここは、控え室みたいだけど俺(シュン)の部屋じゃない。


「はぁ〜よかった」


 覚えのある声が、上体を起こした俺の隣から聞こえる。

気づかなかったけど、横にシュエリーさんがいた。


「ねぇ、大丈夫?」


 なんだこの優しい顔……。

いつものシュエリーさんなら馬鹿とかなんか言いそうだけど、こんな雰囲気で迫ってきたことあったか?

ていうか、顔近いって!


 視線を反らそうとすると、両手で頭を掴まれる。

うわっ、何だこの感じ。

もしかして、キスされるんじゃないか?

そう思うと、どこかシュエリーさんの頬も紅潮しているように見えなくもない。

俺は再び目を瞑り、唇を差し出す。


「は? 何してんのあんた」


 あれ?

なんか平常運転に戻った?


「え、キスされるかと思っ……いてっ」


 そう言いかけると、デコピンを食らった。

なんだよ、ちょっと期待したらこれだもんなぁ。


「勘違いしないでくれるかしら? あんたが虚ろっぽい目してたから、変だと観察してただけ!」


 彼女はそっぽ向いて「フンっ」と、鼻を鳴らした。

あぁ、そうか。

俺あのまま意識失って、それで誰かに助けられたんだ。

ん? あれ、シュエリーさんの後頭部がなんか赤黒いような。


「うわっどうしたのこれ? すげぇ血滲んでるよ!」


 彼女のその部分を少し触ると、手にべっとりと血がついた。


「さ、触らないで! 私はこれぐらい平気なの!」


 シュエリーは頬を膨らませ、こちらを睨んできた。

人のことは心配しといて、自分はいいってか?

そんな事してたら、この大会で勝ち残れないっていうのに。


「ダメだよ! せめて何か布とか巻かないと」


 当たりを探すと、棚の中に医療用の包帯らしき物が置いてある。

とりあえずこれで菌が入らないようにしないとね。

て、左手が復活している?

これもシュエリーさんがやったのか?

いや、治癒魔法は闇魔法の一種だから彼女には出来ないはず。


 でもいいや、早く措置してあげないと。


「シュエリーさん、そこ座って!」


「いや! やるなら自分でやるから、貸しなさい!」


「分からず屋だなぁ、後ろなんだから他人にやってもらった方が早いでしょ? ほら」


 強引に彼女を椅子に座らせたが、口とは反対にあまり抵抗はなかった。

おそらく、彼女のプライドの問題だろうな。

俺に従うのは気に食わないけど、やった方がいいとも考えているんだろう。


 ちょこんと椅子に座ったシュエリーさんをこうして後ろから眺めると、いつもより小さく見える。

双子ちゃんたちほどではないけど、本当に子どものようだ。


「あんた、なんか変なこと思ってないでしょうね?」


「えぇ!? べ、別に。 さ、巻いてきますよ〜」


 察しがいいなぁ、危うくぽろっと口から出てしまう所だった。

もし聞こえてたら、ボコボコにされてただろう。

とはいえ、文句を言わず大人しく包帯を巻かれているとかわいく思えてくる。

髪の毛もさらさらだし、なんかいい匂いする。

いや、だからそういう目で見たら気づかれるって。


「ほいっ終わったよ」


 そういうと彼女は無言で巻きつかれた包帯触った。

で、その後こちらをじーっと見つめてくる。

なんだ?

もしかした、心読まれてたとか?


「下手くそね、これ。でも、ありが……と」


 髪の毛をクルクルしながら、たどたどしくそう言い放ってきた。

やばい、なんだが非常にやばい!

あの鬼畜で腹黒で上から目線のシュエリーさんが、過去最大級に可愛い……気がする。

心なしか、心拍が少し上がって彼女の顔をしばらく眺めていたいと思ってしまった。

実際、まだ目を向けている。


「なに? キモいんだけど」


 全然怒気がこもってないぞシュエリーさん。

なんか、目が泳いでるし。

さっきは勘違いだったけど、今ならもしかして……。


「は!? ちょっと、来るな!」


 彼女に近寄ろうとしたその瞬間だった。

椅子から体勢を崩したシュエリーに巻き込まれるように、2人で倒れ込んだ。


「どきなさいよ、重いんだけど?」


 これは壁ドンならぬ、床ドンというのだろうか?

やばい、すごいドキドキしてる。

離れなきゃいけないのはわかるけど、でも……。


「うぃ〜、シュン起きたか〜? 昼飯持って来たぞ〜。

あとお前を心配してまた2人なんか、増えたわ。

て、お邪魔だったか?」


 扉が豪快に開くと、エレファントがいた。

最悪だ、アクシデントとはいえ誤解を解けないぞこれじゃあ。


「どけぇ変態!」


 しかし、そんな不安をよそにシュエリーは魔法を使って俺を少し飛ばした。

あぁ、やっぱり勘違いだった。

あのまま流れで変なことしてたら危なかった。


「シュエリーさん、シュンさん! お二人とも大丈夫ですか? 心配でつい来ちゃいました。

あれ、お二人ともなんかすごい顔赤いですよ」


 エレファントの後ろからカリナとミリアが顔を出し、こちらに来た。

お二人とも?

まさかシュエリーさんもやっぱり?

見ようとしたら、杖をこちらに向けて威嚇してきた。

今様子伺ったら、絶対にブラスト撃たれるから無理だ。

はぁ、結局俺は何してんだろな。

シュエリーさんとそんな事、ある訳ないし考えるのもどうかしてた。


 その後少し上の空だが、エレファントが自分の控え室に俺を運んだと説明してくれた。

腕も彼の専属の治療魔法使いが治してくれたみたいだ。

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