それぞれの日々

第45話 シュン達一行、話し合う。前編

 彼女(シュエリー)は小柄な身体で1頭身ほど背が高い気絶したカリナを負ぶっていた。

森の中をかれこれ1時間は歩いており、辛そうな表情を見せるたび代ろうか(背負うの)と俺(シュン)はいうが...。


「いいわ。私がやるのこの子は」


 の、一点張りだ。

はぁ、このまま森を抜けれず飢え死になんてことないよなぁ。


「お二人とも、あそこ丘じゃないですか?」


 ミリアは疲れた顔ひとつみせず、一番乗りで丘の方へ駈け込んでいく。


「シュエリーさん、ここで少し休もうよ」


 俺がそういうと彼女は後ろで結った髪をほどき、「そうね」と微笑んだ。

その仕草に少しドキっとしてしまい、顔を反らす。


「どうしましたか? シュンさん」


 ダメだぁ、視線を変えても今度はボインがある。

今顔を見られたらまた2人に変な目で見られるぞどうしよう。

そうだ、斜面が急そうな奥に行こう。

風を浴びれば少しは変な気分も紛れるだろう。

俺は崖のようになっている丘の麓に来ると、両腕を上げて新鮮な空気を吸い込む。

はぁ、このクエスト受けて色々酷い目にあってきたけど...今こうして心穏やかでいられるのが信じられないや。

...って、ここなんか見覚えあるんだよなぁ。

当たりを見渡してみると、最初に訪れた森に近い。

ていうことはもしかして、この真下って...。


「シュエリーさんあれってまさか」


 俺は小声でそう問いかけると、彼女も静かに頷く。

そう、どうやらここは最初に訪れた洞窟の入り口真上みたいだ。

それを決定づける要因として大岩が入口を塞いでおり、周りにローブを来た何者かが数人いる。

恐らくカリナさんと同じ雇い主だろう。

しまったなぁ、街へ戻れる場所まで来たのはいいけど。


「お二人とも、殺りますか? 油断していますし、あの数なら倒せるかもしれませんよ」


 真剣な目でミリアは矢筒の矢に手をかける。

俺は色々と悩んだ末、やっぱりいつも通りシュエリーに判断を仰いだ。

彼女に視線をやると、数秒したのち口を開いた。


「やめましょう。他の場所にもし敵がいたら、増援されるかもしれないわ」


「そうだね。街に近いのはわかったし、数日かかるかもだけど回り道すればいいだけだし」


 そう空元気で返すも、お腹は正直者である。

「ぐぅ」と鳴り、俺は恥ずかしくなって苦笑いをした。

いつもは煽ってきそうなシュエリーだが、両腕を組みため息をついた。


「そうねぇ、転移魔法で繋いでいた場所から数日かけて飲まず食わず。さらに日をかけるとなると、体力がもつかどうかよね」


 ミリアもその言葉を聞いてからは、笑顔でありながらも俺と同じくお腹を鳴らした。

恥ずかしくなったのか、彼女は音を口笛で誤魔化して見せた。


「降ろしてください。ミリアさん」


 悩む俺たちに気絶していたカリナが声を発した。

ミリアは右腕を骨折している彼女を支えつつ、慎重に背中から降ろした。

生まれたての小鹿のような足取りを少しして、何とか自立してみせる彼女は、どこか覚悟を決めてるような目をしていた。


「私が丘の下に行き、お二人を始末したと話します」


 やはり、雇い主に戻ることを彼女は選択する。

俺たちにこれ以上迷惑かけたくないという一心からの言葉。


「でも、始末したといってしまったらもうシュエリーさんとシュンさんは街に戻れないんじゃ」


 ミリアのいうことはもっともだが、解決策はある。


「亡命してください。ギルドは他の国にもいくつかあります。お二人なら身一つでもやっていける実力がありますから。あまり目立たなければ、私の雇い主に気づかれないと思います」


 俺は頭を掻きむしった。


「あのねカリナさん、俺たちのことはいいんだよ。もし始末したという嘘がバレたら、君はその雇い主に酷い目に合わされるんじゃないのか?」


 この人は自分の身をまったく気にしない。

シュエリーさんに懐いていた時の姿を見るに、本当はとても辛いはずなのに。

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