新たな仲間

第25話 初クエストの祝い。視点、シュン

 俺はシュエリーさんに、初クエスト達成のお祝いをしようと酒場に連れてかれていた。

もう陽も落ちて暗いのだけれど、酒場の入り口からは華やかな光が漏れていた。

そして俺たちもその光の中に足を踏み入れると、店員が駆け付け席へと通される。

席に座るやいなや、シュエリーさんはお手拭きで顔を拭った。


「おっさんかよ」


 俺がそういうと彼女は頬を膨らませてこちらを見る。


「うるさいわね。

仕事終わりにこれやるとスッキリするんだから仕方ないでしょ?」


 すぐに言い返してきた彼女だったが、店員が注文を聞きに駆け寄るとすぐに態度を変えてメニューを持った。


「まずはエール2つでいいわよね?」


「え、シュエリーさんはお酒飲んでいいの?」


「冒険者はね、特別にお酒と賭博は若くても許されるのよ? シュンはそんなことも知らないのねまったく」


 シュエリーさんはやれやれと言わんばかりの表情をした後、俺の同意を得ずに店員にエール2つを注文した。

そして数分も立たないうちに水滴が凍るんじゃないかと思うほどキンキンに冷えたジョッキがテーブルに並べられた。


「さ、乾杯しましょシュン!」


 ジョッキの縁まで並々注がれたエールを少し手にこぼしながらも、彼女はこちらに腕を向けた。

俺が消極的に弱くジョッキ同士を当てると、彼女は強く当て返してきた。


「ちょっと、こぼれたじゃん今ので!」


「あはは、ごめん!」


 あれ、さっきみたいに言い返してこない?

シュエリーさんは気分が良くなっているのか無邪気な笑いをし、そのまま酒を口に運んだ。


「そういえば、俺が寝ている間に背中に貼ってたよねこれ? 自分は寝るの邪魔するなっていったくせにひどいよ」


「ぷはぁ。作戦よ、作戦!」


「作戦ねぇ」


「シュンの魔法は上にしか撃てないけど威力はとてつもないわ。

だから、相手の油断や戦意を喪失させるには色々段取りがいるのよ。

私が相手と戦って互角かそれ以上なら、あなたの魔法を見せれば必然的に戦うのが無謀とわかるでしょ」


「まあやりたいことはわかったよ。

この背中の絵も説得力のためでしょ?

でもそんな都合よく、毎回敵が降伏したり油断するとは限らないと思うけどね」


「まあそうね。

今回は微妙にヤバい感じもしたわ。

よし、こうしましょう。

とりあえず今は簡単なクエストでパーティーとしての功績を高める。

で、私たちとパーティーを組みたいって人を見つけるのがいいわね」


 パーティーを増やせば、俺が魔法を発動させて隙を作った敵を攻撃できる回数が増える。

と、楽観的に考えてみたけど果たしてそうなるだろうか?

俺は本当には強くないけど、シュエリーさんの腕は確かだ。

パーティーに彼女と同じぐらい腕が立つ仲間が増えれば、俺がそもそもいらなくなるんじゃないだろうか?


「なに暗い顔しているのよ。

お祝いしているんだから楽しくしてよ」


「そうだよな、はは」


「わかった、仲間を増やしたら僕は用済みになるんじゃないか。

とか思ってるんでしょどうせ」


 見事に思っていることを言い当てられ、むせ返る。

その姿を見てシュエリーさんは指を指しながら笑ってきた。


「そんなにおかしいかよ、たくっ」


 俺は図星なことや自分の情けない考えに恥ずかしくなり、顔を背けた。


「本当に馬鹿ね。用済みになんかするわけないでしょ、借金払ってもらわないとちゃんと」


 なんだよ、金吸い上げてから追い出そうってことか?

性格の悪いシュエリーさんらしいや。

俺だってそんな人となんて借金払ったら...。


「それに、魔法が使えなくてもいざってときシュンは助けてくれるからね。

必要ないってことは……思ったことないわよ」


「またどうせ演技でしょ、もうそう何回も騙されな...」


 振り返ると、酒のせいなのか顔が赤くなっているシュエリーさんがそこにはいた。

照れているのか、時々こちらから視線を反らしている。

しかし、何度もこちらを真剣な顔で見つめてきた。

どうやら、演技じゃないことをわかってもらうために真面目な表情をしている...のか?

俺は、このような顔をするシュエリーさんをカリブと再会したときに見た。

本当に必要に思ってくれる仲間。

そんな仲間にこれから先、出会えるだろうか?


「シュエリーさんのこと疑ってたごめ...」


 心の中とはいえ、何度かシュエリーさんをカリブと重ねてしまっていた。

彼女は本当に俺のことを仲間として、一緒にやりたいといっていたのに。

申し訳なくなり、今までのことを謝ろうと口を開いた瞬間のことであった。

隣の席から何やら騒がしい声が耳に入る。


「褐色の姉ちゃん、いい身体してるねぇ? 俺たちと飲まないかぁ?」


 顔を向けると、酔っぱらった男が顔をフードで隠している女性に絡んでいる光景が目に入った。

あの酔っ払い、千鳥足でその場にもまともに直立できていない。

絡まれている女性は、酔っ払いがふとももを触ってきても黙り込んでいた。

もしかして、怖くて迷惑だって言えないのだろうか?


「さ、俺とトイレ行こうぜ姉ちゃんよ」


 流石に静観できないと思い、俺は席を立ち男に声をかけた。


「飲み過ぎですよお兄さん。

ちょっとあっちで水でもどうですか?」


 こういう酔っ払いは波風立たせず、酔いを醒ましてやるのが一番だ。

冷静になればこの人も落ち着くだろうし。


「あぁ? 男には興味ねえんだよ! そこどけ」


 うわ危ないなぁ。

男は瓶を振り回し、女性の前に立っていた俺を遠のける。


「さ、いくぞ姉ちゃん」


 男は再び女性の腕を掴み、強引に連れてこうとした。

しかし、何故か知らないが男が力強く引いても女性はピクりとも席から動かなかった。


「なんだこの女、なんで力入れてるのにまったく。

あぁ! 来いって言ってんだろ!」


 男はキレたのか、とうとう女性へも瓶を振り下ろそうとした。


「まったく品のないおじ様ね。

女性に手をだすなんて恥ずかしくないのかしら?」


 あーあ、シュエリーさんが登場しちゃった。

彼女は魔法で瓶を取り上げ、男の頭上に持っていきぶっかけた。


「少しはそれで酔いが冷めまして?」


 事を荒立てないようにした苦労が一瞬で吹き飛んでしまったと悟り、俺はデカいため息をつかずにはいられない。

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